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【目立たないけど】企業の心理学研究職に大事な「実験力」を解説

こんにちは。私は心理系学部卒にもかかわらず企業で心理学を生かした研究職をさせてもらっています。

この記事を読んでいる方には、大学の専門は心理学だけど、アカポスよりも企業で研究したい…!という方もいるはず。

そこで今回は、心理学専攻から企業の研究職を狙う際にも役立つであろう「実験力」の重要性と習得方法について解説します。

実験力の意味と企業で重要な理由

研究をするために、心理学の多くの領域*1では実験が必要です。実験という行為をもう少し分解すると

  • 実験刺激を作る
  • 教示文を決める
  • 実際に実験する

このような作業が含まれています。この一連の作業をやり切る力を個人的に「実験力」と呼んでいます。研究を仕事にするならほぼ全員に必須だと思いますが、特に企業で心理学の研究をする場合は大事です。次のような理由があります。

理由1-派遣がいないから-

それなりの大企業であれば、社員とは別に実験を専門に行う派遣社員を採用しています。例えば有名どころで言えばワールドインテックとかアルプス技研あたりでしょうか。機械系であればちょっとした実験作業、バイオ系であればピペットマンとしてピペット系の作業をしてくれます。

そのため社員は、実験系を考えたり、実験後の考察を作ったり上司に説明するための資料作成などの作業に集中できます。

ですが心理学の場合、そのような作業だけを専門にする人はいないので。実験に関連する作業の大部分を社員自ら行う必要があります。

成果物に責任を負わせるなどの目的*2で実験課題の作成を外注することはありますが、基本的には仕様、最低でも要件レベルは社員側で決めないといけません。

理由2-計画立案者と実験者が異なるから-

大学(少なくとも学生)の場合、基本的には実験計画を立てた人が実験作業までするはずです。その為、実験計画に多少の粗があってもその場の機転でなんとかなってしまいます*3

一方で企業の場合、実験計画を立てる人と実験をする人が違うことがあります。理由は次の2つです。

  • 短期間でデータを取る必要がある*4
  • 実験計画を立てた人が実験時には退職している

実験計画を立てた人が実験前に辞めるの!?と学生の方は思うでしょうが、ある集団の経年変化を追うような時間軸の長い研究だとありえます。企業の場合フィールドを企業として持っている(またはお金を払って契約する)ので、誰かが抜けても研究が続けられるのです。

大学の場合、教員の退職と共に研究が止まることが珍しくないので、ここは企業の大きな強みですね。

いずれにせよ実験計画を立てる人と実験する人が違うと起こりがちなのが、「教示の不統一」や「作業の抜けもれ」です。正しいデータがとれず、頑張って経費獲得したのにでてきた結果がゴミになることも…

理由3-上司が心理学の専門家とは限らないから-

大学の場合、(学生の目線からすると)教授は心理学の専門家であり、基本的には実験課題がリサーチクエスチョンに対して妥当か判断できるだけの知識と経験を持ち合わせています。例えば私の出身校の場合、研究室の教員が実験の模擬被験者になって実験の妥当性をチェックしていました。私自身もそこで色々修正頂いたのを覚えています。

ですが、民間企業の場合上司は必ずしも心理学などの専門的教育を受けているわけではありません。その為、「その教示はマズイのでは?」ということに気づかないまま実験をして意味のあるデータが取れない…ということも。

実験力をつける方法

心理学を企業で研究するにあたり「実験力がないと詰む」という話をしましたが、どうすれば良いのでしょうか?大きく2つの対策があります。

プログラミングの考え方を身につける

昨今の心理学実験の大部分はコンピュータを使っています。その為、実験課題を作るにもプログラミングスキルは必須です。

なお、外注したりPsychopyなどのGUIツールで実験課題を作る手段もあるので、ゴリゴリのプログラミングはあくまでWantです。(実験後の分析では必須ですが)。むしろRPA開発で培える「プログラミングの考え方」によって効率的に要件・仕様を作っていくスキルの方が大事だと思います。

RPAやプログラミングの考え方の話はこちらをどうぞ。

www.psycheng.com

実際のところ、プログラミングの考え方さえ習得できていれば、ある程度はプログラミング言語も習得できます。Python未経験だった私でも、2ヶ月でPandas(Pythonにおけるデータフレーム)やMatploylib(Pythonのグラフ描画機能)を多少は使えるようになったので…

教示文は読み上げ原稿を作る

先ほど述べた通り、企業では「実験計画は立ててないけど実験作業だけする」人が発生しえます。そのような人は、悪意はなくとも「ちょっと教示文変わっちゃった」となりがちです。最悪の場合、肝心なところの教示が勝手に変わり結果が歪みます。

対策としては実験者用の読み上げ原稿、参加者からの質問に対する想定問答集を作って渡すのが良いでしょう。そこまでの時間がなくても、自分の代わりに実験をしうる方には実験の目的を詳しく伝え、実験の練習を自分の前でやっていただくべきです。

この際に自分と実験者以外の同僚にも立ち会ってもらうと、実験計画や教示文のまずさに気づけることもあるので、3つ目の理由への対策にもなります。

まとめ-自ら作業するからこそ実験力が大事-

心理学研究に関する仕事を企業でしている人がまだまだ少ない今、バイオ系で聞く分業は成り立ちません。だからこそ、実験計画を立て必要なデータを取り切る力を強化していくことが大事だと思います。これは、自戒を込めてなんですけどね…

ではまた別の記事でお会いしましょう!

*1:臨床系におけるケースとかは一旦横に置きます

*2:社員は「決まった時間労務を提供する」義務はありますが、成果物への責任は原則ありません。一方外注(特に請負)であれば成果物を完成させる義務があり、成果物になんらか問題があれば賠償させたり無償で修正させることが可能です。

*3:本当は問題なのですが

*4:学生と違って基本的に労働時間の上限があって実験計画を立てた人だけが実験をしているといつまでもデータが揃わない