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反ワクチンな人の心理的傾向―欧州での3000人規模の調査から分析―

こんにちは。

新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。今(2021年5月)はまだ医療従事者がメインですが、しばらくすれば全国民が対象になると思います。

しかし、「ワクチンを打つと○○になる」といった、科学的な事実に基づかずに反ワクチンな主張を繰り広げる人がいるのも事実。「誰が反ワクチンなの?」とSNSでは盛り上がっていますが、反ワクチンな人の人物像はあまりよくわかっていません。

そこで今回は、どんな人が反ワクチンな考えを持ちやすいのかを3000人規模の調査で研究した論文を紹介していきます。

過去にはコロナに立ち向かう医療従事者のメンタルヘルスについての論文も解説しました。こちらもぜひお読みください。



扱う論文と調査概要

今回扱う論文はこちら。Nature姉妹誌ですが、オープンアクセスです。無料で全文を読むことができます。

調査と質問の内容

英国/アイルランドからwebサイトで3000人の回答者を集め、アンケートをおこないました。まず、「コロナワクチンを自分に打ちたいか?」をはい(接種する)/たぶん(迷う)/いいえ(接種しない)の3段階で回答させました。

その他いろいろな質問に回答させましたが、ここでは質問内容の一部のみ抜粋して紹介します。

  • 所得などの社会階層に関すること
  • 糖尿病などの基礎疾患/妊娠の有無
  • ビッグファイブによる心理的傾向(協調性・外向性・神経症傾向・開放性・誠実性)
  • コロナについて知る情報源

調査結果(概要)

まずはアイルランド/英国それぞれの回答者についてワクチン接種に対する考え方を確認しましょう。おおむね3人に2人は接種する、1割弱が接種しないという結果に。

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この傾向は、欧米各国でほぼ共通していました。「摂種しない」が1割なのは他のワクチンともおおむね一致しています。

社会的なバックグラウンドー低所得な人でワクチンに懐疑的

社会的な背景によるワクチンへの態度の差を分析します。両国において、強い相関が見られたのは性別/年齢/収入の3つです。まず女性の方が接種を迷うor接種しないの率が高くなっています。

年齢で見ると、高齢(65歳以上)よりも中年/若年層ではワクチン接種を迷うと回答する割合が高くなっていました*1

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AORとは修正オッズ比のこと。ある事象の起こりやすさを群間で比較したもので、1以上なら対照群と比べて起こりやすいことを意味しています。今回の場合、年齢を群にしたときにワクチン接種への態度が「迷う」になるか否かに影響するかを調べています。


続いて所得によるワクチン接種への態度を見てみましょう。アイルランド/英国それぞれにおいて所得を上位から5段階に分類しています。そして、ワクチンを接種するに対するワクチンを接種しないの割合をグラフにしています。

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ほぼ全ての所得階層で、上位層より下の所得層の方がワクチンを"接種しない"と回答する率が高くなりました。

 

心理的プロフィールー国を超えて似た傾向が見られる

ワクチン接種を迷う/接種しない人における社会的な背景は、英国/アイルランド間で差が見られた項目もあります*2

一方、心理的なプロフィールを見ると両国で共通点が多く見られました。いくつか紹介していきます。

まず利他心に注目すると、ワクチンを接種する群と比較して、ワクチン接種を迷う/接種しない群では低くなりました*3

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続いて陰謀論の信じやすさについてです。トランプ大統領が再選失敗した際に陰謀論が注目されましたね。少なくともサンプル内ではワクチンを迷う/接種しない人の方が陰謀論を信じやすいという結果になりました。

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 注意

接種するvs接種しないで比較すると、接種しない人の方が陰謀論を信じやすい傾向にあることがより明確になります。


続いて、政府や科学者となどの既存の権威に対する信頼度を見てみましょう。アイルランド/英国とも同じ傾向のため、わかりやすいアイルランドをグラフにしています。

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3種類の既存の権威に対する信頼は、ワクチンを接種する群が迷う/接種しないを合わせた群よりも高くなりました

メディアへの態度

最後に、コロナに関する情報を集めるメディアとそれへの信用度を確認しましょう。アイルランドとイギリスでほぼ同じ傾向が見られたため、アイルランドで説明しています。

結果は下記のとおりです。ワクチンを接種すると回答した人は、接種しない人に比べて伝統的な情報源からコロナに関する情報を得ていて、かつその情報源を信頼していることがわかりました。

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一方でワクチンを接種しない人は接種する人に比べて、SNSからコロナに関する情報を得ているようです。 

まとめと対策ー反ワクチン傾向の人にワクチン接種させるためにはー

ここまで紹介してきたワクチンを接種しない人のペルソナをまとめると、おおむね次のようになります。

  • 低年収
  • 若年層
  • 女性
  • 反エスタブリッシュメント
  • 陰謀論を信じやすい
  • SNSでも情報を収集

これらはトランプ支持者、マイルドヤンキーと呼ばれる人たちと共通点が多いように見えます。

こんな人たちにコロナのワクチンを接種してもらうために、政府や医療機関はどのような戦略を練るべきでしょうか。

論文内で書かれていた反ワクチン傾向を持つ人へのコミュニケーション方法をスライド1枚でまとめてみました。

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政府機関やテレビといった伝統的な権威ではなく、Yotuberやコミュニティリーダーといった人からワクチンの安全性について言ってもらうと「刺さる」ようですね。

ということは、以前小池知事とユーチューバーがコラボしてステイホーム!マスク!と言ったのは大正解だったことになります。


今回は、どんな人が反ワクチン傾向を持ちやすいのか?をアイルランド/英国の調査から分析しました。今後も論文紹介記事はときどき上げていくので、読んでもらえれば嬉しいです。


*1:接種しない、についてもほぼ同様です

*2:今回の論文では文字数の都合で扱っていません

*3:この傾向は英国でも共通です