企業では誰が心理学の研究開発をしているのか?

こんにちは。

 

商品の広告を見ているとときどき「人間工学を応用して作られたキーボード」とか「心理学の知見を活かした××」という触れ込みの商品があります。 もちろんこういった商品の開発にはゴリゴリの研究者である大学の心理学者が関係していることが多いです。

しかし、当然のことながら企業にもこの製品を実用化するためのいろいろな検討、例えば使いやすさについての実験の実施などを行っている人がいます。 このように何らかの形で企業の人が心理学の研究開発をしていることは多いにも関わらず、心理学出身者が少ないのが実情です。

一方で、私自身学生時代に心理学を専攻して企業に来て、「学生時代に心理学を全くやっていないのに心理学を活かした研究開発をしている方が多い!」とすごくビックリしました。この「学生時代は全く違う分野の研究をした人が同じ部署である程度近い研究をしている」というのは心理学や人間の研究領域ならでは。

というわけで今回は「企業では誰が心理学を研究開発するのか?」ということを解説してみたいと思います。

 

新卒や若手の心理学人材は心理学のスキルを活かして人間のいろいろを研究開発することが期待されている、という考えから心理学に限らず人間に関わる幅広い研究をこの記事では扱います。

 

 

 

大きく4種類に分けられる

分け方はいろいろあると思いますが、今回は「どのようなルートで今いる部署にたどり着いたのか?」という基準で分けてみました。

業界によって分類ごとの比率は異なりますが、少なくともいろいろなバックグラウンドの人が同じ部署にいることは共通していると思います。

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心理学専攻出身者

おそらく企業で心理学を研究している方の1割くらいでしょうか。まだまだ少ないのが実情です。企業にもよりますが、心理学の中でも学習や認知、生理といった領域出身の方が多いように感じます。

臨床系の方は、研究開発ではなく安全衛生や産業カウンセラーとして企業に来ていることが多いです。


年齢的には30歳前後の方が多い気がします。 学会誌等に出てくる研究者の経歴や企業の求人を見る限り、博士卒やポスドクが多いです。私のような学部や修士の新卒はほとんどいないのではないでしょうか。

当たり前ではありますが、心理学やりたい!というモチベーションで会社を選んでいることが多いグループです。

 

人間を扱う分野の出身者

例えば脳科学や生体工学、理系の研究室で心理物理学や感性工学をやっていた人などがここに入ります。私の知る範囲では修士卒くらいの方が多いです。比較的新卒で入ってきた人が多く、大学での専攻を活かした業務をしています。

心理学専攻の人が企業に就職したとき、直属の先輩になる人はこのあたりの出身ではないでしょうか。 分野の違いはあっても学生時代から人間を扱っていて、専門の機器の扱い方の知見が深かったり、積極的に論文を出されている方が多いように感じます。

心理学専攻とは異なり、就活時に自分の専攻を活かして就職しやすいです。そのため、心理学や人間には興味あるけれど、それ以外の理由も含めて本人が今いる会社を選んだ人が多いように感じます。

 
社員として参加している学会のポスター会場で話を聞いてみると、この立ち位置の方が多かったです。

他分野出身

化学とか天文学、素粒子など分野はいろいろですが心理学や人間とはかなり離れた領域の出身者がここに入ります。企業に来て初めて人間を扱う研究を始めたという人が多いです。

しかし、その会社が心理学や人間の研究開発を始めてからずっと心理学などの研究をしていることも多く、会社の立ち位置なども意識しておられます。

 

年齢的にも30代くらいの方が多く、第一線の研究開発者として引っ張りだこの方が多いです。年齢層だけで考えれば新入社員の直属の上司になる世代でしょうか。大学で言えば専任講師*1のイメージで考えてもらえばいいでしょう。年齢的にもこのあたりの方が社会人博士を狙うのではないでしょうか。

社会人であり一定の実務経験があれば、学部・修士課程をスキップしていきなり博士課程に入学することも認められています。

 

管理職

この層の人は、自分がテーマの主担当として研究をすることは少ないです。 心理学や人間の研究を長年やっている企業でなければ、「この部署に来て初めて人間の研究開発をする」というケースも。

管理職という名前の通りマネジメントがメインの仕事です。そのため、予算を獲得してきたり社内での研究テーマ決定権を持っていたりします。また個別の研究テーマの成否だけでなく、部署として限られた資源をいかにうまく回すか、今後この部署はどのような仕事をしていくべきなのか?を考えています。 組織の運営という意味では大学で言えば教授クラスの教員に近いです。

 

就活生側の目線で言えば、一次面接でたまたま心理学を始めとする人間の研究をしている人に当たらない限り、面接で会うのはこの管理職層が多いです。

就活生側としてどう対策すべきか?

出来るだけいろいろな層の社員と話をすることが大事だと思います。良し悪しは別として、心理学専攻の人を新卒で採用し、育成するだけの余裕があるのは日系の大企業、はやりの言葉で言えばJTCが多いです。

ただし、文系の採用と異なりジョブローテーションを前提としていない、ある程度専門性を重視したうえで採用育成を行う企業もあります。これは職種別採用を行う企業、心理系人材を採る企業で名前を上げれば資生堂のような企業だけではなく、あくまでも技術系の総合職として採用する企業も同様です*2*3

とすれば、基本的にはある程度長い目で働いてくれる人を会社として採用したいでしょうし、就活生側も長期的に自分の専門性が活かされそうか?という観点で企業選びをする必要があると思います。

また、社員の方に質問をするときには、「この人はどういうバックグラウンドで仕事をしているのだろう?」ということを意識したうえで質問をしないと、自分には全く役に立たない回答が返ってくることになります。

ここでは詳細な面接の対策については書きません。興味のある方はこちらの記事を読んでみてください。



例えば、相手が若手、本記事でいう12番目の人であれば「自社を選んだ決め手」や「どのような育成、サポートがあったか?」を聞けば、今後数年の自分の仕事が予測できます。

 注意

研修を始めとする人材育成の方針は、様々な事情で突然変わることがあります。それだけを当てにして会社を選ぶと痛い目にあうかも。


一方管理職層の方が相手であれば、オープンになっている会社の戦略に対して、心理学や人間研究をする部署がどのように貢献していくつもりなのか?あるいは心理学人材に何を期待しているのか?といったことを聞ければ有用な回答が得られるかもしれません*4

 

 注意

会社の経営戦略に直接リンクするところなので、工夫して質問をしないと回答を拒否されたりはぐらかされたりします。


ということで心理学を活かして企業に行きたい方は、たとえ同じ部署の人でも立ち位置によって業務が全く違うことを意識して動くといいと思います。この記事が少しでも役に立てれば幸いです。

*1:助教の1つ上の職位

*2:部署移動はありますが、それは定期的に行うものではなく業務上の必要から臨時に行うものとなっているということを意味しています

*3:とはいえ、いわゆる「配属リスク」は存在します

*4:株主向けの情報であるIR情報を参考にすると、会社の経営戦略が見えてきます