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【テレワーク】感性工学を活用したビデオ会議サービス(ZOOM・MS Teams)の改善(?)

こんにちは。

新型コロナウイルスの感染拡大から3か月。テレワークやビデオ会議といったシステムでの勤務が当たり前になりつつあります。

とはいえ、「対面じゃないと説明しにくいこと」ってたくさんありますよね?今回紹介する論文は感性工学の力でそういうソフトの質を改善しよう!というお話です。



日本マイクロソフトの社員さん、良ければこれを読んでMS Teamsの改善に生かして頂ければ嬉しいですね...

 

ビデオ会議サービスとは

パソコンなどの画面を通じて会議が出来るサービスのことです。サービスによって使い勝手は異なりますが、自分の背景画面を好きなモノに変更出来たり、自分が話していないときはこちらから音が聞こえないようにする「ミュート」が出来たりします。イメージとしては下の画像のような感じです。f:id:husbird:20200523201146p:plain

サービス自体は以前からあったものの、新型コロナの影響で在宅勤務する人が増えた結果、こういったサービスがどこでも使われるようになりました。

有名なサービスをあげると...

  • ZOOM
  • Microsoft Teams
  • Google Meet

など、ITの大手企業が次々に参入しています。Google Meetなどは1年間個人向けに無料化するなど、競争が激しい領域です。

今のビデオ会議システムの課題

課題はいろいろあると思いますが、主なものをあげるとこんなものがあります。

  • 画質が悪くて見えにくい
  • 通信容量をすぐに使い切る
  • 直接話すのに比べてなんとかく議論を掴みにくい

今回紹介する論文では、これらの課題のうち3つ目を扱います。つまり「議論の可視化」をいかにしてサポートするか?ということです。

議論の可視化は感性工学の領域では「人間のイメージを具体的に物理的なデザイン要素に翻訳してそれを表現する技術」であり、オンラインでの会議に重要だと言えます

 

ここで述べたような「人間の考えていることを物理的な要素に翻訳する」という行為は企業における心理学の仕事のメインになる要素です。人によっては人間定量化などと言ったりすることもあります。


さて、今までもこういったシステムの研究は行われており、先行研究ではCOLLAGREEというオンラインでの会議サービスを用いています。例を示すと、商品開発業務において誰かがスケッチを投稿すると他人のスケッチ投稿を促す、学生と自治体職員がオンラインで会議をするような機会における意見収集がしやすくなるなどの効果がありました。

これらの例が示すように、サービスによる議論活性化は可能なようですが、内容がわかりやすいか?ということには触れられていません。というわけで今回の論文では感性工学の知見を活用して多人数の議論を想定した感性語(ex.かわいい・重厚な)の可視化を検討しています。

論文では実際にサービスを改善し、「家具の商品開発」というテーマでどんな効果があったか?を検証しています。論文では「配色」や「素材」というキーワードが出てきますが、それぞれ「家具をどんな色にするか?」「家具の素材はどうするのか?」という意味です。

作ったサービスの評価

論文そのものでは、「サービスのここを変更しました!」というのが1ページ以上にわたって書かれています。が、ここではスペース(と著作権)の改善したサービスの図などは割愛し、作ったサービスの評価とその説明に必要な仕様に絞って解説していきます。

 

まず、論文では家具の「配色」に関する議論をサポートする配色付き画像や配色などの添付を行って参加者に評価させました。その結果、配色を添付した表現がビジュアル表現が楽しく、親しみやすく印象に残ることがわかりました。続いて素材や議論の段階について可視化する方法を検討し、それぞれ評価を行いました。(ここまでが第5章です)

さて、ここまでで「それぞれこんな表現にすれば感性工学的にいい」ということがわかりました。ということで実際に全部組み込んで実際に会議をやらせてみました!というのが第6章のお話です。

今回の論文ではこのような次のような条件で、先に述べたようなサービスの改善に本当に役立つのか?を「実装あり」と「実装なし」の2群に分けて議論をさせる実験しました。

  • 議論のテーマは「小学生から大学生まで使える学習机をデザインしよう」
  • 議論の段階は「発散」「収束」「評価」からなる
  • それぞれの議論段階は24時間ずつ

なお議論の段階でいう「発散」とはとにかくアイデアを出す段階、「収束」は発散で示された意見について検討して絞り込む段階、「評価」は議論を集約させ意思決定を行う段階となります。

次の表がその結果です。論文の元データを基に私自身でもう一度計算しました。その計算法の詳細は注釈*1を見てください。

f:id:husbird:20201107153343p:plain

この表から見てもわかるように、収束フェーズにおいて、実装アリが実装ナシに比べて全体の投稿数に対する比率が高まっています。また閲覧数について注目すると評価フェーズにおける閲覧の比率が高くなっています*2

これらの結果から、実装アリは実装ナシに比べて収束フェーズにおける投稿を促し、評価フェーズでの閲覧を促進することがわかりました。このことからフェーズの可視化(すなわち実装)によって過去の議論について把握しやすくなると考えられます。

次にこの論文ではこのシステムが議論支援をしているか?という観点から実験参加者にアンケート調査をしています。その結果アンケート調査に含まれる10個の項目のうち「合意形成をしやすいか」と「素材についての議論内容がわかりやすいか」という2項目で実装アリが実装ナシよりも評価が高くなりました。

このことから上に書いた2つの観点ではこういったシステムの有効性があると考えられます。

感想

この論文の結果から、 COLAGREEの改善による議論支援が可能であることはわかります。ただ、この論文では家具の配色と素材について調査研究を行っていますが、配色については議論可視化の効果が必ずしもあるとは言えない結果になったと思います。

議論したい内容に応じて使うサービスを変えるといいのかな...と個人的には感じました。もちろんコストの観点から難しいのですが。

その一方で、議論を発散・収束・評価の3段階に分けてそれぞれ議論可視化の効果を検討しているのはとても興味深いです。特に議論可視化の実装をすると評価フェーズにおいて閲覧数は増えるが実際に意見を投稿するというわけでは必ずしもない、という結果は今回の議論可視化システムの課題だと思います。

なお、議論活性化という内容は創発性や社会的促進というテーマから心理学、特に社会心理学でも議論されています。いろいろな先行研究もあるのでぜひ読んでみてください。

*1:分析対象としたのは論文の表5です。例えば実装アリ・投稿数についてのAチームとBチームについて、各フェーズごとにAチームとBチームの投稿数の和を算出し、その和について全体の投稿数で割り%を算出しました。

*2:個人的には「比率ではなく件数で比較すべきでは?」と感じますが、それぞれの群で2グループしかありませんし、そもそも積極的に投稿する人、そうでない人がいるので比率で比較しているのだと思います