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【理系の代替?】心理学専攻を研究開発職で雇用するメリット・リスク

こんにちは。

心理系学会誌のキャリアコーナーに時々出てくる「心理学専攻から企業の研究職に就く」進路。まだまだ数は少ないものの、今後増えると思います。

ただ、企業の立場から見たメリット・デメリットについてはあまり記事がありません。そこで今回は、企業目線でのメリット・リスクを心理学専攻→企業で心理学研究している私が解説してみます。

メリット/リスク

企業における心理学研究知見の蓄積状況、心理学専攻の学生の就活傾向は理系とは異なります。そのため、通常の理系採用とは違う考えで臨むべきです。

メリット-研究ノウハウを気軽に使える

心理学関連の研究で重要な、対人ならではの実験の組み方。理系出身の研究者の多くはこのあたりの教育はあまり受けていないのか、意外にこのノウハウを知らなかったりします。しかし、質問紙や実験を目的にあった形に修正するノウハウは、研究の成功には必須です。

理系であればこのノウハウを持つ受託研究企業にお任せする選択肢もありますが、心理学の場合そもそも受託研究をする企業の数も限られています。また、ちょっとしたノウハウを聞くだけでも(通常)お金がかかります。

一方社員として雇用すれば追加でのお金はかかりません。ちょっとした質問でも気軽にできます。

博士・ポスドクであれば、対人研究に係る基本的なスキルの教育・育成担当としての役割も期待できます。

メリット-学習能力の高い人材を雇いやすい

共同研究からの引き抜きのようなケースを除けば、学生時代と企業就職後で研究テーマは通常変わります。

この前提に立つと、学生時代の保有スキル以上に異分野の知見を学習できるかを重視して採用すべきです。*1このような学習能力の高さを重視するなら、出身校の偏差値である程度は評価できます。

ただし、有名大学の機電系・情報系の学生となれば圧倒的に売り手市場です。それこそ高待遇だったり社格だったりがなければ採用は難しいでしょう。

一方で心理学専攻は基本買い手市場ですから、そこそこの待遇でも有名大学の学生を十分採用できるはずです。

進学・アカポスと迷う学生も多いでしょうから、配属確約は必須だと思います。

また、学習能力を重視して学部卒で採用すれば、理系採用のスタンダードたる修士と比べ初任給を節約できます。

企業側もこのメリットを理解し始めたのか、従来は理系人材を入れていた研究開発のポストに、東大などの高学歴な心理系学部卒を採用したケースをちらほら聞くようになりました。

リスク-配属によって無能化

企業での心理学研究はまだ実績が少ないので、急に研究テーマが中止、最悪の場合は対人研究に関する分野が廃止・移管されるかもしれません。

この際、受託研究会社であれば、独禁法や下請法の範囲で自由に契約解除できます。しかし、社員として雇用すると需要がなくても気軽に解雇できません。

その場合、心理学とは無関係の分野に再配属するわけですが、私を含め心理学専攻の人材は数3を履修していない=行列ができない、高校物理を未履修なので摩擦や波動の基本公式すら知らない人も多いです。

基本的な数学・理科の知識不足が原因で再配属先の業務ついていけずに無能化する可能性もあります。

理系であれば一定の数学力は担保されていますが、心理学専攻はそうでないところに注意が必要です。

心理学専攻の採用で成功するために

コストカット・ポテンシャルの観点から心理学専攻を研究開発職で雇うのはオススメですが、通常の理系人材にはないリスクを持つため企業側も一定の対策が必要です。

中途-高給な有期雇用にする

そもそも、心理学専攻(特に博士)が進む研究職となると大学・国研が多数。そう言った組織が博士新卒を採用する際の賃金は年収500万〜600万、しかも最大5年の有期雇用が多数です。

そのため心理学専攻で研究職を狙う人材、特に博士卒にとっては有期雇用でもそれほど応募に影響しないものと思われます。そこで年収7〜800万円程度を出す代わりに最大5年の有期雇用にすれば良いのではないでしょうか。雇い止め法理には要注意ですが、低リスクでポテンシャルある心理系人材を雇うことができます。

新卒-有名大学に推薦を出す

私含め、「できれば心理学(実験系)の専門性を活かして就職したいな…」という人はそこそこいます。特に有名大学ほど多い印象です。彼らは高校時代に数3履修済みという場合も多く、理系の知識も一定程度持っていることも*2

こう言った学生に対して推薦枠を出せば、機械系人材よりは容易に採用できるはずです。それも、今スキルは持たないが学習能力(ポテンシャル)は高く、給料よりも雇用の安定を重視する社員が。日系企業とは相性が良いでしょう。

最低限の数学・物理化学の知識を担保するために、入社時に高校数学の専門試験(SPIでは担保できません)を課すことが望ましいです。

最後に-まだ見ぬポテンシャル人材を採ってみよう-

心理系人材を研究開発で採用する…一昔前なら意味不明な発想ですが、多様性や理系人材の採用難もあり少しずつ採用する企業が増えているように思います。御社もコストカット、多様性確保の観点から検討してみてはいかがでしょうか?

今回紹介するこちらの本は「理系を採用するための口説き方」などを解説していますが、心理学専攻の学生を始めて雇う際にも、ベースとなる考え方は参考になるはずです。

*1:日系企業のように、配属先を企業側が選べる企業なら尚更

*2:東大・京大・阪大の心理系学部は、理系からも入学しやすい入試科目が設定されており、3割程度は理系出身の人がいる印象です