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【国勢調査】ムリなデータ取得法から心理学調査をする人が学ぶべきこと

 注意

この記事には通常よりも個人的なイデオロギーが強く出ています。予めご了承ください。


こんにちは。

日本に住んでいれば全員が回答する対象になっている国勢調査。私も一人暮らしをはじめたため、今回(2020年の秋に実施)初めて自分で国勢調査に回答しました。

しかし、実際に回答して「調査としてちょっとおかしいところあるな」とか「こういう姿勢で心理学の調査をするとマズいな」と思うところがあったので、書いてみたいと思います。

POINT

この記事では5年に1度行われる国勢調査の「マズい質問の仕方」を例に、何に気を付けて心理学の調査をするべきかを解説しています。

 

そもそも国勢調査とは

国が5年に一度行う基幹的な調査です。統計法という国の法律によって、総務大臣が実施しなければならないとされる全数調査でもあります。条文としては次のようになっています。

総務大臣は、前項に規定する全数調査(以下「国勢調査」という。)を十年ごとに行い、国勢統計を作成しなければならない。ただし、当該国勢調査を行った年から五年目に当たる年には簡易な方法による国勢調査を行い、国勢統計を作成するものとする。(統計法第5条の2)

一方で国民側も回答が義務付けられています。根拠となる条文は次の通りです。

行政機関の長は、第九条第一項の承認に基づいて基幹統計調査を行う場合には、基幹統計の作成のために必要な事項について、個人又は法人その他の団体に対し報告を求めることができる。
2 前項の規定により報告を求められた個人又は法人その他の団体は、これを拒み、又は虚偽の報告をしてはならない。(統計法第13条の1及び2、太字は筆者による)


さて、この国勢調査ではどのような情報が集められるのでしょうか。 総務省の公式資料*1によれば、大きく世帯員(つまりその世帯に住んでいる人)に関する項目と世帯に関する項目から構成されており、2020年実施の国勢調査では19項目が聞かれます。

あくまでも、2020年実施の国勢調査で聞かれる内容であり、毎回調査項目は変動しています。実際に2015年実施の調査にあった「住宅の床面積の合計」は削除されました。

 

実際の調査項目から見る「マズい」聞き方

ここでは2020年実施の国勢調査で使割れ項目のうち興味深いものを見てみましょう。

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  • 2.男女の別
  • 5.配偶の関係

19項目の中にはこれ以外に学歴や仕事の内容などを聞く質問もあります。これらの質問は、どこまで詳細に聞くかに差はあるにせよ一般的なマーケティングのアンケートでも聞かれる内容です。消費者のターゲッティングの観点からもこれらの情報は非常に価値のあるものと言えます。

取り上げる2つの項目のうち、まずは「男女の別」から取り上げます。紙の調査票である国勢調査調査票では、氏名と同じ項目として次のように回答を求めています。

3 氏名及び男女の別 ふだん住んでいる人をもれなく書いてください(太字は原文ママ)

心理学の調査を行ったことのある人ならびっくりするはずです。「男女の別」って何?と。心理学の調査でも性別はほぼ確実に聞きますが、少なくとも「男」「女」「無回答」くらいの配慮はあるのが普通です。場合によっては「その他」や「自分の言葉で説明する」といった配慮の行き届いた質問の仕方もあります。

そしてそもそも何を答えるべきなのか?が明確にされていません。「戸籍に登録されているor見込みの性」なのか「性自認」なのかについて全く触れていないため、答えにくい人は少なからずいるだろうなあ...と思います 。たぶんそこに首を突っ込むといろいろな問題に向き合う必要があるため、総務省としてはあえて触れなかったと思います。

次に、配偶の関係です。国勢調査調査票では次のように回答を求めています。

6.配偶者の有無 届け出の有無に関係なく記入してください(太字は筆者による)

こちらでは「届け出の有無は問わない」と明記しています。いわゆる事実婚のような関係であっても配偶者ありと回答すべきと解釈できます。さきほどと異なり非常にわかりやすく回答しやすいですね。

国勢調査から学ぶ心理学の調査で気を付けるべきこと

ここで、国勢調査の特徴をいくつか書き出してみましょう。

  • 全数調査である
  • 回答が義務であると明記されている
  • 心理学の調査では当たり前にある、回答者への配慮が見られない項目がある

たしかに国勢調査は1億人以上の全国民のデータを1か月で集めないといけません。このスピード感と規模は心理学の調査では絶対にできない規模と言えます。また、公共の福祉の観点から回答を強制することも、まあ仕方ないと言えないこともないでしょう。そして、経年変化を追いかけたい項目では、聞き方を変えれば使いにくくなるのもわかります。

しかし、全数調査で回答が義務付けられている調査です。そして回答者の背景は普通の心理学の調査ではありえないほどバラバラです。だとすれば回答者の心情への配慮、答えやすいような明確な定義が最低限必要だったのではないでしょうか。

さて、大学で学生が行う卒論の調査を考えてみましょう。「お互いの調査に協力し合う」「部活やサークルの後輩といった力関係を使って調査に協力させる」...こういったことありませんか?

もちろん現実の運用として、本来お金を出して調査すべきところを学生にタダでデータを集めてくるよう求めている*2わけですからある程度のモラル上の問題は眼をつぶるべきなのかもしれません。多くの場合、「めんどくさいなあ...」とは思いつつも「まあ友達だし協力してあげるか...」と問題なく回答してくれるでしょう。私自身の学生時代を見ても、程度の差はあれ皆していたものと思います。

しかし、私が企業に移ってこのような姿勢の調査は通用しないことを痛感しました。こちらのブログ記事にあるように、2時間の心理学実験に1人当たり4000円の謝礼を出したり、プロの被験者を雇うことが企業では当たり前に行われています。


ダメな調査の例になっているような気もする国勢調査を踏まえ、私も含めてヒトの調査をする立場として次のことは気を付けるべきと考えます。

  • 調査が強制でないことをきちんと明確にする
  • 力関係の都合上回答せざるを得なそうな人にはなるべく調査のお願いをしない
  • 調査の目的、何に使われるのかを明確にする
  • 「マジョリティ」ではない人にムリな回答を強要する質問づくりはしない
  • 何を聞いているのか?どういう観点で答えるべきか?をきちんと明確にする

もちろん一回目から完璧に出来る人はいないでしょうし、私自身もできていない点が多々あります。しかし、上のようなポイントに注意しないとなと知っているだけでもやり方が大きく変わるはずです。

例えば、以前このブログではオンライン調査のメリットややり方を解説しました。オンライン調査であれば「力関係の都合上回答せざるを得なそうな人」を排除し純粋な善意だけで回答データを得ることが可能です。詳しいことはリンク先からぜひ読んでみてください。


国勢調査という一人暮らしの大学生であれば回答せざるを得ない質問紙を見ながら、自分の卒論の調査だったらどう聞くかな?というところにまで思いをはせてもらえれば幸いです。

*1:https://www.soumu.go.jp/main_content/000671306.pdf

*2:個人の見解として、この国ではタダで研究データを取ることに社会的なコンセンサスが取れているとは思いません。