【書評・ツイッターの心理学】ツイッター×心理学をテーマに統計分析の実際を学ぼう

こんにちは。

以前このような論文を紹介しました。


このときはTwitterの研究なんて珍しいなと思っていたのですが、探すと結構な数あるようです。たまに学会に参加しても、多くの方が興味を持っていることもありテーマとしても人気です。

今回紹介する本は、おそらくは日本で初めてツイッターの心理的側面に焦点を当てて、検討を行ったものです。

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この本は2016年に出版されました。ツイッターの基本的なシステムは現状と同じですが一部システムやユーザーの行動実態が現状と異なる可能性があります。

ツイッターにおける行動を網羅的に研究している

このブログの書評では毎回目次を掲載していますが、今回もそうします。

  • 序章 ソーシャルメディア時代のオンライン世界
  • 1章ツイッターとソーシャルメディア
  • 2章 ツイッター上のネットワーク
  • 3章 人びとの「つぶやき」のわけ -- 情報発信手段としてのツイッター
  • 4章 人びとの「リツイート」のわけ -- 情報転送手段としてのツイッター
  • 5章 人びとはツイッターで何を見ているのか -- 情報発信手段としてのツイッター
  • 6章 「つぶやき」とネットワークがもたらす情報過多
  • 終章 ソーシャルメディア時代のオンライン世界の今後

目次を見るとわかりますが、2章でツイート、3章でリツイート、4章でツイートを見る行動を扱っています。これだけでもツイッターの重要な機能についての議論は一通り網羅していることがわかります。

内容面ではテレビやブログといった他のメディアと比較したツイッターの特殊性がメインです。大きく分けると次の3つに分けられます。

  • フォローによって自分で受け取る情報を選択的に限定できる(カスタマイズ性)
  • リツイートによって発信にかかるコストを最小限にして発信できる
  • フォローが増えた場合、TLに流れる情報が恐ろしく増大する(情報過多)

こういった特殊な環境であるツイッターにおいて、人間はどのような行動をするのか?に焦点をあてています。

特に興味深いのはリツイートを扱った4章です。他人の情報を拡散するシステムであるリツイートについて、「誰が」「どんな内容を」「なぜ」「誰に向けて」という観点から、テキストマイニングを駆使して分析していくのは、「こんなこともできるのか!やっぱり心理学の調査は面白い!」ということを教えてくれます。

この本の全体で触れられてはいますが、発信コストが極めて小さいツイッターで何が起きているのか?そしてフォロー外しといった過剰な情報に対処するための行動に対する分析は1個人としてももちろん、ビジネスでツイッターを活用する人にも有益なはずです。

調査・統計分析のやり方、面白さがよくわかる

この本ではいわゆる心理学における調査を扱っています。扱う内容はかなり幅広く、標本を利用した質問紙調査、twitterのログ解析、KHコーダーを用いたテキストマイニングまであります。

私は質問紙以外の調査経験が全くないのでこういった分析の詳細まではわかりません。しかしこの本では、これを調べたい→こんな方法で解析をしました→結果こうなります(図)といった流れで丁寧に説明してくれているため、この手法でこんなことを調べられるのかということが非常に分かりやすいです。

また、統計分析についてもある程度の初歩から説明してくれています。例えば因子分析については次のように説明してくれています。

因子分析とは各項目に対する回答パターンの相関関係から、項目に対する反応に共通する因子を数理的に推定する統計手法である。

なんとなくしか分かっていない言葉でも、こうやってきちんと説明してくれると理解が深まりますよね。

この本では因子分析と重回帰分析が多用されていますが、重回帰分析では複数のモデルの結果を並べており、変数の出し入れによる結果への影響がわかります。下の本で紹介されていたような、うまくいった分析だけを掲載して論理を組み立てるようなことはしていません*1


そして重回帰分析の1つである多項ロジット回帰分析については次のように説明がありました。

多項ロジット回帰分析は3値以上の値をとる名義尺度(カテゴリー)を従属変数とする回帰分析モデルの一種である。(中略)は相対危険度(Relative Risk Ratio: RRR)である。これは当該独立変数が1標準偏差分増加した場合に、その従属変数(カテゴリー)が比較するカテゴリーに対して、何倍選ばれるようになるかという数値で、RRRが1より大きければそのカテゴリーは比較カテゴリーに対して選ばれやすく、RRRが1より小さければそのカテゴリーは比較カテゴリーに対して選ばれにくくなることを意味する。

私自身は多項ロジット回帰の経験はないのですが、この文章だけで、「なるほど、そういうことか」と理解できました。こういった形で、必要十分な統計知識を説明してくれています。

もちろん、どのような流れで調査を進めたのかについてきちんと最初で説明があるため、調査のやり方を掴んで自分の研究にも生かせます。

調査に関心がある学部生・実務家の方にはおススメできる

この本は専門書です。そのため、手っ取り早くツイッターにおける心理的要因を知りたい人には向いていません。全体で206ページの本ですが、私自身も理解しながら読むのにかなり苦労しました。心理学研究を始めとする論文誌を読むのと同じ感覚で向き合う必要があります。

一方で、自分の研究や業務でツイッターや社会調査を扱う人がツイッターの研究の全体像をつかみ、どういうところに自分が関心を持てそうか?を考えるには有用な本です。専門書だけあって引用文献リストも充実しています。

基本的には専門書ですが、6章の最後では実務家向けのアドバイスとしてユーザーがツイッターを利用する動機を理解することの重要性がきちんと触れられています。この動機にあった戦略を取らないとそもそもツイートを読んでもらえない*2、目を通してもらったところでリツイートしてくれないというアドバイスは非常に参考になります。

少し難しそう...と思った人もいるかもしれませんが、扱っているテーマはネットユーザである皆さんにはかなり身近です。自分に最適化されたリコメンド機能で自分の考えが急進的になる...というのは多かれ少なかれ皆さん経験があるはず。

そのようなよくあることをの理由を、方法論だけではない実際のデータ分析のやり方を学びながら知ることができるのはたぶんこの本だけだと思います。ツイッターと分析どちらも勉強したい!という方は是非読んでみてくださいね。


 

このブログでは、心理学に関するいろいろな本を紹介しているので、ぜひいろいろな記事を読んでみてください。自分の勉強に役立つ本が見つかるはず。

*1:実際に自由度調整済み決定係数を見ると、独立変数をたくさん入れている割には数値が低く、あまりうまくいっていないな...というモデルも多くありますがそこが実験室実験ではない難しさでもあり、調査の面白さでもあります

*2:TLに表示されることと、読んでもらうことは別であるとこの本では評価しています