【論文紹介】ADHDの人はどんなときに危ない運転をするの?

こんにちは。

発達障害の人には車の運転は向かない,事故を起こすから運転なんて迷惑だ!
という趣旨の発言がSNS等でされますが,「発達障害だとどんなときに事故を起こすのか?」についてはまだまだ知られていないのが現状です。

というわけで今回は海外の論文を用いながら,発達障害のうちADHDの人が事故を起こしやすい状況について検討していきます。

特にADHD当事者にとっては「どんなときに注意すればいいのか?」というのがわかるはずです。


タイトルを和訳すると,ADHDの若者運転者に対するディストラクタの影響という意味になります。

はじめに

ADHDの人は運転が苦手,事故を起こしやすいということは様々な研究*1によって示されてきました。

また近年,車を運転するときの運転席周りのデバイスは大幅に進歩しています。スマホやカーナビ,車載の事故防止システム,そして様々な娯楽サービスなど,その進歩は目覚ましいものです。

これらのデバイスはとても便利ですが,ADHDの人にとっては注意が他のところに向いてしまうなどのリスクもあります。

さらに,かつてADHDの症状は大人になれば治ると考えられていましたが,(この論文が執筆された当時)ADHDの症状は大人になっても持続することが知られるようになります。

ただでさえ若者*2の事故率は高く,70代以上の事故率と同等あるいはそれ以上なのが実情です。そのような中でADHDの若者は運転のどのような状況が苦手なのか?という問題が検討されるようになります。

これから紹介する研究は,ADHD×若者の交通事故研究の中では初期のものの1つ。引用数も100越えと注目された研究です。

方法

結構シンプルです。運転に関する論文を読んだことがある方なら,このパターンどこかで見たなあ...となると思います。私はこのパターンを2回くらい見たことがある気がします...

参加者

運転経験が1年以上ある17-24歳であることを前提に,ADHDではない人と,DSM-IV*3などを用いてADHDであると判断された人をそれぞれ集めました。

※一般の人だけではなくADHDの人を集めているため,実験参加者の募集はそれなりに大変だったことが推察されます。詳細は2.1.Participantsの項目に譲りますが様々な方法で参加者を募集したそうです。

詳細な説明ははぶきますが,本実験にさきがけて運転に関する問診票が配られました。質問内容はスピード違反や事故歴などです



実際の課題ではリアルの環境ではなく,シミュレーションを使っています。*4

課題

一般道路を運転する高刺激運転課題(High stimulus driving)と高速道路を運転する低刺激運転課題(Low stimulus driving)に分かれており,実験参加者全員が同じ課題を行う参加者内計画です。

運転中には2次的な課題が行われ,条件によって異なります。おおまかな内容はこのようになっていますが,詳細は実際の論文を参照してください。

電話課題...一般道路を走る高刺激運転課題で行う課題。第2ブロックにおいて,ハンズフリーの電話を自らかけ,事前に収録された音声に対して応答を行います。

CPT(連続パフォーマンス課題)...事前に収録された音声から1文字ずつ放送されます。規定の順番通りであるか否かを口頭で回答します。

結果

実験段階で集めた参加者のうち,実際にデータの分析対象となったのはADHDを持つ25人,ADHDではない35人の計60人です。25人のうち,12人はADHDに関する治療を受けていて,残りの13人は治療を受けていませんでした。

問診票

この中には過去5年間の間に車での事故を何回起こしたことがありますか?という質問がありました。

これに対して,24人中14人(58%)のADHDである人が事故を起こしたことがあると回答し
た一方でADHDではない人の場合は38%の人が事故を起こしたことがあると回答しました(p=0.07で有意)。

また,スピード違反による警告頻度についても質問があり,ADHDの人で29.4%となった一方そうでない人は27.6%でした(非有意)。

問診票の結果から,全てとは言えないがADHDの人はより不安全な運転をするといえます。

2次課題そのものの成績

一般の都市部の道路を運転したときに行った電話課題について,ADHDの人はそうでない人に比べて顕著に低い得点を出しました。

 

一方で高速道路を運転する課題ではADHDの人(誤答率 24%)がそうでない人(誤答率 27%)よりも低い誤答率*5を示しましたが,この結果には有意差がありませんでした。

1次課題

距離に関する数値は全てフィートです。なお1フィート=30.48cmとなっています。

  • 1秒あたりに進んだ距離
  • スピード超過した距離
  • 変動係数*6
  • 停止サインがある場所での停止時間

結果そのものは全て本文中の表に記載されていますが,ここではADHDとそうでなかった人の差が特に大きかったスピード超過して移動した距離に絞って解説を行います。

 

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標準偏差の数値が大きすぎるので割愛しましたが,平均はこんな感じになっています。

まず,高刺激運転課題である都市道路を走行する課題では,2次課題が行われている最中は,そうでないとき,すなわり2次課題前及び2次課題後に比べてスピード超過する距離が短くなりました(p<0.01で有意)。

高刺激運転課題において,ADHDの人がそうでない人に比べてより長い距離をスピード超過したかについては論文中で触れられていません。



一方で低刺激運転課題である高速道路を走行する課題では,2次課題が行われている最中はそうでないときに比べて,スピード超過する距離が長くなりました。

またADHDの人がそうでない人に比べてスピード超過をしていること,そしてピリオド×ADHDの状態に関する交互作用も有意であり,ADHDの人が低刺激運転課題で2次課題遂行中にスピード超過をよりしていることが示されました。

考察 

結果ではスピード超過した距離のみに触れましたが,考察ではそれ以外についても概略のみ記載しておきます。

  • 低刺激運転課題の結果より,ADHDの運転者はスピード制御の維持が困難あるいはそれに焦点を当てない
  • 先行研究のように綺麗な結果ではないが,ADHDの人は運転と2次課題の間の注意分配に困難を抱える可能性がある
  • ADHDを持つ運転者は、彼らの能動的運転性能(平均速度、速度制御の変化)が対照群のそれに匹敵するような方法で、都市部の運転中の電話課題の必要性をバランスさせるようである。
  • 高速道路での結果から,2次課題はADHDの人の運転パフォーマンスに大きな影響を与えるが,運転が困難な状況ではない場合,運転パフォーマンスに妥協して2次課題に注意を割り振る可能性がある

今回の論文では具体的な結論には至らなかったものの,本実験では運転と2次課題の成績双方が報酬に影響するため,実験参加者にどちらに注意を重点的に配分するかを考えさせることになった可能性も指摘しています。

 

まとめ

今回の実験は,ADHDの人の運転パフォーマンスについて2次課題や報酬の特性といった背景の重要性を示唆するものでした。例えば運転に注意を向ける必要性が小さかったり,もっと注意を引くような課題があった場合安全性(今回の場合運転パフォーマンス)を犠牲に する可能性があるというものです。

論文自体はここまでですが,ADHDである私自身の運転を振り返ってみると,車がビュンビュン走っているような大都会では緊張感をもって運転できているとは思いますが,田舎なのに走りやすい道だと注意が散漫になっているような気もします。

あとはカーシェアの代金を節約したいとき*7になると注意が散漫になってぶつかりそうになったりしたことありますね...

私はそもそも運転が苦手で免許取得の際にも下の記事のようにすごく苦労したのですが,取得してからもひやひやしながら運転しています。

これを機に例えばど田舎のように一見安全そうに見える道路での安全運転を意識したいものです。読んでくださる方もくれぐれも安全運転に努めて頂きたいものです。

*1:例えばReimer et al, 2007。詳細は紹介する論文中の引用リストをご活用ください

*2:日本であれば18歳から29歳

*3:2010年当時,DSM-Vはまだ作られていませんでした

*4:個人の感想ですが,やっぱり自動車の完成品は100万円以上しますし,何より事故を起こした瞬間パーになるのは辛いですしね...

*5:具体的には,実際にあるのに「ない」と判断するミス,実際にはないのに「ある」と判断するフォルスアラームの合計

*6:標準偏差を平均で割ったもの,相対的なばらつきの大きさを示す

*7:タイムズのカーシェアは,予約している時間よりも早く返すとその分料金が安くなります