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【論文紹介】なぜ面接は過信されるのか?"フリートーク"で欲しい情報は取れない

こんにちは。

就職活動や大学受験では,しばしば面接が行われます。私は面接がとても苦手なので,就活の時は面接の回数が少ない企業を重点的に受けていました...それでもたくさん落ちましたが...

ところで,1人あたりせいぜい30分の面接で応募者が優秀か否かを本当に見抜くことはできるのでしょうか。

心理学や意思決定に関する多くの研究ではこの疑問に対して「非構造化面接では全く見抜けない」ということを主張してきました。

今回の論文紹介では「非構造化面接は本当に役に立たないのか?役に立たないとして,面接の価値が妄信されているのか?」を解説していきます。

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紹介する論文はこちらです。にしても社会心理学やそれに近い分野の英語論文は比較的読みやすい気がするけどどうしてなんでしょうかね...



 

 

はじめに 面接の種類について

面接はムダ!といっても全ての種類の面接がムダだというわけではありません。臨床心理学専攻の方であればわかるように,効果のある面接もちゃんとあります。

この論文ではほとんど触れていませんが,まずは面接の種類について確認しましょう。

  • 構造化面接...仮説検証を主な目的に行う。質問項目と評価基準を事前に明確化しておく。閉じられた質問形式が使われる。
  • 半構造化面接...事前に質問は決めて行われるが,相手の反応に応じて質問の順序等を柔軟に変更して行う。
  • 非構造化面接...多面的な情報を収集し,仮説を生成するために行う。自由回答する開かれた質問になる。



改めて整理すると,心理学研究法の授業でやったぞ!という方も多いのではないでしょうか。

課題の内容と手続き

本研究は3つの実験から構成されていて,実験1と実験2の手続きはおおむね共通しています。ただし課題が複雑なので少し丁寧に説明していきます

実験1と実験2の課題内容は「面接を受ける人のGPA*1を予測せよ」というものです。

条件によって前の学期のGPAのみが与えられたり,前の学期のGPAだけではなく面接で質問ができたりします。GPAや面接で得られた情報を基に特定の学期のGPAを予想するのが課題です。

実験参加者(GPAを予測する人)はアメリカの超一流大学であるカーネギーメロン大学の学生でした。ちなみにこの大学世界大学ランキングでは27位と東大の36位を上回っています*2

実験1(基本的には実験2も手続きは共通しています)

実験参加者は受験者に対して20分間の面接を行い,その後特定セメスターのGPAを予測するように求められました。予測の際には前セメスターのGPAを伝えられました。

このとき特定セメスターのGPAを予測するためには以前のGPAを活用するのが最善の手法である*3ということを説明されます。

GPAを予想した後で質問紙を配られ次のようなことを質問されました。

  • 受験者のことをよく理解できたか?
  • 面接は有益な情報を得ることに貢献したか?
実験で行われた面接の種類
  • 選択回答式条件(Accurate condition)...「はい」か「いいえ」のいずれかでしか回答できないのような質問がされ,受験者が受験者自身に当てはまるように「はい」か「いいえ」で回答する条件
  • ランダム回答条件(Random Condition)...本文で解説されているような疑似乱数に基づいて受験者がランダムに回答する条件,ただし回答は「はい/いいえ」か「これ/あれ」に限定されます。
  • 自然会話条件(Natural Condition)...「はい」か「いいえ」では答えられない質問でもOK。実験参加者は受験者に対して好きな質問が可能です。



本研究の場合,自然会話条件が非構造化面接に近いものと思われます。

実験参加者は全ての受験者を面接するわけではありません。面接しない応募者については事前に与えられたGPAのみで特定セメスターのGPAを予想します。

実験1の結果と考察

実験参加者によって予測されたGPAと特定セメスターで実際に獲得したGPAがどの程度正の相関を示すか?が本研究では重要な結果でした。

予測GPAと特定セメスターでのGPAの相関は面接アリ<面接ナシとなりました。

一方でこの結果を就活における採用活動と同列に扱うことに対しては,

  • GPAは仕事のパフォーマンスよりも信頼できるものである
  • 就活における面接官は事前のGPAほど有効性の高い情報を得ることは困難である

といった理由から注意が必要だとしています。

続いて面接の種類によってGPAの予測精度は変化するのか?を検定しました。
その結果,ランダム回答条件のみ相関係数r≠0となり,それ以外の選択解答式条件と自然会話条件では相関係数r=0(無相関)となりました。

この結果から,面接がランダムな回答であってもGPAの予測と面接への自己評価は影響を受けないこと,面接ナシの方がGPAを正確に予測できる一方で,実験参加者は面接で有効な情報を得られたと思っていることがわかりました。

実験2

面接を行っている人が質問する内容をコントロールすることが重要かもしれないと考えられるため,実験2では「ただ面接を行っている動画を見せる」ことにしました。


手法は実験1とほぼ同じですが,実験2では面接を行っている動画を見て面接受験者を評価します。このとき実験1で行った自然会話条件は使わず,選択回答式条件とランダム回答条件のみ使いました。

また実験1とほぼ同様の実験後のアンケートも行われました。

結果としては,予測されたGPAと実際のGPAは実験1と同程度には相関していたものの,実験1ほど事前のGPAは実際のGPAを予測する手立てにはなりませんでした。

しかし全体的には実験1と実験2を同様に考えることが可能であると考えられます。
事前のGPA&実際の面接よりも,事前のGPAだけを参考にした方が正確にGPAを予測できることが分かりました。

実験1と2から面接によって意思決定を阻害することはわかったものの,実験の大部分を面接をさせたり,その動画を見させたりするのは大変です。論文では,大変だからこそ実験参加者が元から「面接は有効である」と思い込んでいた可能性があるとしています。

実験3

実験1と実験2では面接を行ったり,あるいはその動画を見せたりしていましたが今回はそういうことはしません。

そのかわりに実験1のどの方法*4が実際のGPAを予測するのに有効か?を新たに集めた実験参加者に回答させました。

その結果,実験参加者が予測に最も有効だと考えた条件は自然会話条件でした。2番目に有効だと考えた条件は選択式回答条件で,ランダム回答条件が3番目でした。

実験1で最も実際のGPAを正確に予測できた面接なし条件は最も有効ではないと評価されました。

 

表6*5を個別に見ていくとわかるように,判断を困難にする情報を含むランダム条件ですら面接なし条件よりも有効だと評価されたことがわかりました。

まとめ

一連の実験結果から非構造化面接が有効でないだけではなく,判断の正確性を低下させる傾向があることがわかりました。

この効果は成績のように,意思決定に有効な情報が既にある時に特に顕著に見られます。

また実験3の結果から実際には非構造化面接やランダムな質問はGPAを予測するために有効ではないのに,それらの面接が相手の能力を測るのに有効であると考える傾向があることがわかりました。

感想

実験1の結果にも書かれているように,GPAと仕事でのパフォーマンスを同列に扱うことは過度な一般化だと思います。

その一方で,本実験の参加者が超一流大学の学生であり学業的の面で優秀*6と思われる彼らであっても面接をうまく活用できないのを見ると「面接って誰がやってもムダなのでは?」と私は感じてしまいます。

また,実験全体を見る限りでは面接を行うことそのものが相手の能力を測るのに有効であると信じている人は多いと感じました。

就活に話を移しましょう。筆記試験は得意なのに面接は苦手...という人は少なからずいます。私もそうでした。

失敗した面接について何も反省しないのは良くないですが,過剰に気にしすぎないでもよいかも知れません。

就職四季報を見れば,初期の筆記試験で大量に落とし,面接ではあまり落とさない企業もあります。また公務員では面接に進めれば2倍以下*7と言うケースも多々あります。

この論文紹介を見て,面接というものを当てにしすぎるのはNG...と感じて少しでも元気になってもらえれば幸いです。

*1:大学における成績

*2:Times Higher EducationのWorld University Rankings 2020より

*3:本文内で先行研究として紹介されています,詳しくは本文を読んでください

*4:例外アリ,詳しくは本文を参照

*5:詳細は本文参照

*6:アメリカの大学は日本以上にダイバーシティや学業以外の成果を重視しする傾向にありますが,それでも平均的にはSATで上位7%のスコアが必要だそうです。詳細はhttps://www.thoughtco.com/carnegie-mellon-gpa-sat-and-act-data-786404を参考にしてください

*7:これでも民間に比べれば明らかに面接での倍率は低い