なぜ質問紙調査が乱用されるのか?有害なアンケートが作られる理由

こんにちは。

先日書いたこの記事ですが,おかげさまでたくさんの方に見ていただき,複数の方からコメントを頂きました。


コメント内容はどれも非常に興味深かったのですが,「そもそもなんでこのテーマで質問紙調査するの?」という内容が一番印象的でした。

今回はこの質問に対して,なぜ質問紙調査が過剰に行われるのか?をお仕事で質問紙を作った経験が何度かある私の立場から書いてみたいと思います。

ここでいう「質問紙」とは世間一般の方が言うアンケート調査だと思ってもらえれば幸いです。

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内部の条件を容易に統制できる

心理学を始めヒトを対象に行う研究や臨床試験では,実験や調査,フィールドワーク,インタビューなどが行われますが,ここで考えなければいけないのが「内部の条件」と「外部の条件」の2つです。

内部の条件とは,実験であれば実験の課題,質問紙・アンケートであれば質問の内容といった形で実験・調査を行う人の熟練したスキルがあれば,ある程度容易にコントロールできるものを指しています。

一方外部の条件とは実験であれば実験参加者の特性や実験室の外の騒音,調査であれば回答者の気分など,コントロールが比較的難しいものを指しています。

こういう外部の条件による誤差をできるだけ抑え込むためにたくさんサンプル数を稼げば,誤差もランダム化されるので何とかなると言われればそこまでですが...

これら外部の条件をコントロールして実験や分析をする方法が知りたい!という方は「実験計画法」や「乱塊法」などの言葉でネット検索してみてください。


先ほど「熟練したスキルがあれば」と書きましたが,これがとても難しいのです。実験の実施を大学にアウトソーシングしている現状を見る限り,企業の多くは心理学実験のスキルを十分に持っていないのではないでしょうか。

十分なスキルがない状態で実験を行うと,実験中に実験者がミスする...ということが容易に起こります。*1

それに対して質問紙の場合,少なくとも書かれている質問内容は回答者に関係なく常に同じ質を保つことができ,実験本番中にミスをするということがありません。

そのためしっかりした質問紙であればそれなりの結果を出すことができます。

 

この内部条件は必ず統制できるというのはインタビューやフィールドワークなどでは得られず,質問紙調査をする大きなメリットだと思います。

ちなみに心理学の研究だと質問紙の内的・外的妥当性の観点から質を高めるため様々な研究が行われる...ということもあり卒論・修論でも質問紙調査は多いです。



簡単にサンプルを集めることができる

心理系の学部では秋口になると「卒論のためのアンケートに答えてください!」という趣旨のお願いが授業の後に必ず行われます。

限られた授業の時間を特定の学生のデータ収集のために使うのが良いかは別として,ほぼ全員が回答に協力してくれます。原則として謝礼もないのに。

もちろん心理学部で,卒論には助け合いが必須という事情もありますし,結果として無言の圧力がかけられているというのもありますが...。

私たちの卒論で謝礼が現金に出来るケースだと「最低賃金を下回ることがないように!」とキツく注意されるのでなかなか依頼側としては辛いところです。とにかく安価にサンプルを集めることができるというのはお金のない大学では本当に大きなことだと思います。*2

また,サンプルの質はともかくとしてtwitterでバズれば簡単にサンプルを集めることができるのも事実です。例えばこの前回の記事みたいに。

調査に関するノウハウが蓄積されている

この話をするために,リサーチ会社はどういう形で収益を上げているのかを書いてみることにします。

 

いわゆるリサーチ会社(ex.マクロミルやインテージ)は主にアンケート調査やオープンなフィールドでの購買量調査などを以前から行っており,それは日本国内だけではなく世界レベルで行われています。

これらの企業は常にサンプルのスクリーニングや質問紙の質向上,迅速な分析等を行っています。

大学で心理学の質問紙調査をするときにはある程度「まあ質問紙配っても回答してくれる人いないし無理でしょ」というのを解決してくれる非常にありがたい会社です。

 

私自身こういった企業の方々と以前お話をしたことがありますが,質の高い調査に対してかなり熱をもっているように感じました。*3

ちなみに,こういったリサーチ会社がどうやって利益を上げているのか?についてですが,主に調査を依頼されるクライアント(いわゆる大企業が多い)からのお金が売り上げになっています。

 

リサーチ会社は調査を依頼するクライアントから得たお金をもとに回答謝礼やサンプルの質を維持したりするスクリーニング,自社の広告などを行っています。

回答謝礼ですが,私が参加したネット調査だと時給換算で500円以下といった感じでした。それなりにピンハネされていますね...*4

 

心理学の研究者からの依頼もあるためか,今年の日本心理学会にも楽天インサイト(楽天系のリサーチ会社)が出展していました。

世論調査をしたという「パフォーマンス」になる

 

新聞社を始めとしたいろいろな企業が様々な調査をし,その結果をネットのニュースなどで公表しています。その調査したという事実そのものがニュースになることもあります。

「○○政権の支持率90%!」とか「顧客満足度90%!」などを見て「すごい!きっといいんだわ!」と思う人は多いはず。*5

数字がちゃんとあるだけで説得力が増すというわけですし,その結果だけで新聞社やネットニュースメディアだとニュースになり,しかも簡単にバズります*6


その調査のサンプルや質問項目がまともなのか?という問いかけがされているのを私は大学以外で見たことがありません。

結局のところ,調査をした!という内容だけで記事が書けてしまうこと,また質問紙を作って調査するという行為自体はとても簡単なのがいい加減な調査が行われる理由なのだと思います。*7

まとめ

実験室実験による調査研究が好ましい!ケースが多いのは事実ですが,現実問題としてそのような時間とお金をかけることが難しいのもまた事実。

ある程度は質問紙調査に頼らざるを得ない以上,少しでもまともな調査をしていく必要があります。

まず質問紙を参考書などを見ながら作成し失敗しながら少しずつ改善策を学ぶこと。もう一つは極端な調査結果はあまりあてにしないこと。この2つが挙げられる気がします。

だからこそ卒論を始めとする大学内での試行錯誤が大事なので,私自身もそれを活用せねば...


質問箱の方を開放しておきますので,気になるところがあれば質問箱にでも入れてもらえると幸いです。(記事のネタ探しにもなりますし...)



*1:実際私自身実験中にミスをしてデータをゴミにしたことが複数回ありますし...

*2:無賃労働によってタダになっています。必要経費が0というわけではありません

*3:マクロミル・インテージともインターンに参加した時にそう感じました。大変魅力的な仕事をされていると思います。

*4:あくまでも謝礼なので最低賃金法の規制を受けません

*5:もちろん私が調査をしたわけではない

*6:あくまでも他のニュースに比べてのお話

*7:ネット記事ではなく,プレスリリースの形で公表される調査の場合,比較的調査にかかわる手順をしっかりと踏んでいる傾向にあります