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【BRTでは実現】JR九州は精神障害者割引を導入できる?

本記事公開後の2024年4月11日、2025年4月1日からJR旅客全線で精神障害者割引が導入されるとの発表がありました。制度の詳細と活用方法はこちらの記事をご覧ください。

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こんにちは。

先日公開したこちらの記事では日田彦山線BRTの乗車体験を述べました。日田彦山線BRTの「事業主体」はJR九州なのですが、事業主体がJR本体の交通機関において精神障害者割引が導入されたのはおそらく史上初です。今回はこの精神障害者割引導入がJR九州全体の割引導入に繋がるのか?を解説していきたいと思います。

他のBRTとの違い

JRが鉄道の代替路線としてBRTを導入するのは今回の日田彦山線BRTが2例目です。そこで日本で初めてBRT化された気仙沼・大船渡線と比較してみましょう。気仙沼・大船渡BRTの運賃制度は同じなので一括してJR東日本BRTと呼びます。

なんと同じBRTであるにも関わらず、JR九州が事業主体である日田彦山線BRTのみ精神障害者割引があります。BRT区間のみ、精神障害者割引を適用すると乗継割引の適用不可ですが、乗り通すと430円のおトク。事業主体である以上、割引による損失を直接被るわけですがすごいですね…。

この障害者割引はBRT単体/営業キロ通算どちらかを選択できるため、営業キロ100km以下では障害者割引の恩恵に預かれない2種(3~6級の身体障害者・B判定の知的障害者)障害者でも、日田彦山線BRTでは半額割引の恩恵に預かれます。

BRTで精神障害者割引を導入できた理由

過去に精神障害者割引を導入した西鉄・広電・近鉄の状況から、割引を導入できる条件をこの記事でも検討しています。

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その上でJR九州を取り巻く環境はこちら。いずれも精神障害者割引を導入しやすい条件が揃っています。

  • 競合の西鉄・航空機は障害者割引が超充実
  • 閑散路線が多く半額でも座席を埋めたい
  • 鉄道事業への依存度が低く、障害者割引によるダメージが小さい

まず、九州における競合の西鉄の障害者割引の充実ぶりは圧倒的です。西鉄の鉄道と路線バスは障害種別に関係なく全て半額で乗車できますし、障害者向けICカードnimocaは精神障害者も利用可能です。

また、日田ー博多を結ぶ高速バス「日田号」を含め需要の多そうな一部路線は精神障害者も半額乗車可能です。全国で見ても西鉄は最強クラスに精神障害者に優しい鉄道事業者です。

また、九州内を結ぶ航空機路線が存在し、特に新幹線も運行する福岡ー鹿児島間ではJALが精神障害者割引を導入。乗継の不便は日によっては画像のように飛行機+空港までの交通費の方が安い*1ことすらあります。

これら競合の存在と、そもそもJR 九州が非鉄事業を収益の柱としている以上、日田彦山線BRTへの精神障害者割引導入は損失として小さく、むしろCSRの観点から広告になると考えたのではないでしょうか*2。この点売上の8割以上を新幹線に依存しているJR東海とは大違いですね。

JR九州での精神障害者割引導入は可能?

今回JR九州が直接損失を被る形で精神障害者割引が部分的に導入されましたが、これはJR九州全体に拡大するのでしょうか。結論からいうと、その可能性は低いと考えられます。

ただ、このままJR九州全線で現行ルールのまま精神障害者割引導入!はできないと思います。理由は私鉄と異なる運賃計算システムにあります。

JR6社間は通し運賃

私鉄では鉄道会社が変われば運賃計算が打ち切られますが、JR6社間の運賃(とりあえず、「新幹線」とか「特急」以外の電車に乗る時にかかるお金と思ってください)は通しで計算されます。これによる割引効果は凄まじく、極端なケースでは通し運賃であるおかげで18000円近く運賃が安くなっています。*3

さらにJR6社が通し運賃である以上、運賃制度も基本的にはJR6社で共通です*4。つまり、1社だけ気軽に精神障害者割引を導入することはできません。今回の日田彦山線BRTも、JR他社に影響しないから導入できたといえます*5

精神障害者割引を導入には運賃改定が必須

ここまで述べたように、JRは通し運賃が原則ですから。JR九州が精神障害者割引を導入するためには運賃制度の根本的な変更が必要です。具体的には2つあります。

運賃値上げ

まずは運賃値上げ。近鉄など最近精神障害者割引を導入した企業も「値上げとセットで導入」となっていますし、流石に鉄道事業で大赤字とはいきませんから値上げは必須です。

導入後の精神障害者割引廃止に追い込まれた高速バスの二の舞にならないよう、15%程度の運賃値上げは必要だと思います。

通し運賃制度からの離脱

次に、JRの通し運賃制度の廃止です。幸いJR九州にとって山陽新幹線直通による売上はあまりないと思われるので、JR九州が単独で通し運賃制度から離脱するのは比較的容易でしょう。割引を計算する際の営業キロも減少するため、精神障害者割引による損失の抑制できます。

JR6社間全て通し運賃制度廃止をすると、損する会社(JR西日本)と困らない会社(JR北海道・JR九州・JR四国)が生まれてしまうので、JR九州単独で通し運賃制度から離脱するのが現実的です。

回数券や乗り放題きっぷの導入

JR九州では上記の通り「免許返納高齢者向け乗り放題きっぷ」を実証試験で導入したように、割引導入には意外と積極的です。そうするといかに他社直通を回避するかがポイントになります。

自社内路線限定で高齢者に対して割引を導入した事例として、JR九州の「免許返納おでかけきっぷ」があります。100人限定の実証実験とはいえ、発売当日に完売するヒットぶりでした。

https://www.jrkyushu-kippu.jp/fare/ticket/355www.jrkyushu-kippu.jp

良し悪しは別として、高齢者と精神障害者はこれから「順調に」増加するでしょう。こういった人に向けたビジネスは基本儲かるので何らかのマーケティングをする企業はこれから増えるはずです。

とすると上記のきっぷを精神含めた全ての障害者を対象にする、現存する障害者向け回数券をデジタル化した上で精神障害者にも開放するといった形が考えられます。

終わりに

今回の日田彦山線BRTの精神障害者割引導入は、今後の精神障害者向け鉄道ビジネスの大きなきっかけになると思います。

近鉄・南海・名鉄のような1級は営業キロに関係なく半額、2級3級は営業キロ101km以上で割引は難しいでしょうが、何らかの形でJR九州での精神障害者割引は拡大するかもしれません。今後に期待ですね。

*1:新幹線は「九州ネットきっぷ」、航空機はJALの障害者向けセイバー(2023/11/15に2023/11/16の運賃を確認)+福岡市営地下鉄(博多ー福岡空港)+空港バス(南国交通の鹿児島空港から鹿児島市内各地)です。

*2:残念ながら広告としての効果はほとんどなく、このブログ以外誰も触れていませんが

*3:稚内(JR北海道)から枕崎(JR九州)まで新幹線と特急をフル活用した際の運賃は30470円です。これを他の私鉄同様にJRの会社ごとに運賃計算を打ち切ると合計運賃は48410円(稚内~新青森(JR北海道区間):12320、新青森~東京(JR東日本区間):10340、東京~新大阪(JR東海区間):8910、新大阪~博多(JR西日本区間):9790+博多~枕崎(JR九州区間):7050

*4:東京と大阪だけにある電車特定区間などは考えないことにします

*5:その証拠にBRT区間を通過する乗車券はJR九州外から発券できません。さらにJR九州管内でも発券できる駅に制限がかかっています