こんにちは
典型的な精神疾患であるうつ病。その治療にはそれなりのお金がかかっています。そんなうつ病をもしゲームで治せるとしたら…?
今回はPokemon Goがうつ病に"効く"かもしれないという研究の紹介です。
うつ病とPokémon Go
Pokémon Goは2016年に公開されたGPSを使った位置情報ゲーム。DSやNintendo Switch版のポケモンと同じくポケモンを捕まえて強くするのが目的のゲームです。
そんなポケモンGoですが、以下のような特徴があります。
一方のうつ病は抗うつ薬のような精神医学的な治療もありますが、
- 運動
- 他人との交流
- 自然との触れ合い
などの非医療的な行動変容がうつ病の改善に良いとの研究もあります。
そう、ポケモンGoと非医療的なうつ病の改善方法がほぼ共通しているのです*1。そこでポケモンGoはうつ病の改善に効くのではないか?と仮説を立て、研究を行いました。
研究内容
今回の研究では、そもそもポケモンGOが集団内のうつ病を減らすことに寄与するか、そのメカニズムの明確化という流れで研究を進めています。ポケモンGOの有効性
インターネットでの検索結果を分析する研究手法は、対象者の自発的な報告に依存しないこと、データ入力の頻度を増やせることから関心のある集団レベルの傾向をタイムリーに測定できます。しかも対象者に気づかれにくいです*2。
そこで、今回はインターネットの検索結果の分析を研究の中心にしました。ポケモンGOリリースの影響を見るため、検索結果は2016年の50週分集めました。
注意。今回はその言葉が最も検索された時と比べた比率を示すGoogle Trendを検索結果として使っています。
- 従属変数…うつ病に関連する4語*3のGoogle Trend
- 独立変数…独立変数調査対象国でその時期にポケモンGoはリリース済みか
さて、調べた結果を以下の回帰式で表しました。
Pⱼₜはダミー変数ですから、ポケモンGO公開によってうつ病関連のキーワードの検索が減ったかは、βが負か否かで判定できます。 結果、うつ(depression)を従属変数としたときにはβが負で有意(p<.05)でした。従属変数の4語を1つにまとめた主成分分析でもβは負で有意になりました。
従って、ポケモンGOの公開はうつ病に関連する語彙の検索を減らす方向に寄与すると考えられました*4。
しかし、ポケモンGOが集団レベルでのうつ病改善に本当に効くのでしょうか?今回の研究手法では以下のような疑問が浮かびます。例えば
- 選定した4語の妥当性
- ポケモンGOが公開された時期で何かうつ病が減るような事象の発生
うつ病関連語彙の妥当性
最初に選んだうつ病に関連する語がたまたまポケモンGOの公開(リリース)と連動して減った可能性を排除するため、クラウドソーシングサイトの回答者からうつに関する語彙を自由に回答してもらい、その結果から新たにsadなどの8語を選びました。
この結果に対して先ほどと同様のモデルを用いて検証した結果、選んだ語のうちsadのβは有意に減少し、8語を纏めて主成分分析にかけてもβは減少する傾向が見られました。*5
現実のうつ病診察状況との対応
Googleの検査結果は、「なぜその単語を検索したか」まではわかりません。そこで、うつ病が減ると判断するためには実際の診察や治療の状況データとの対応を見る必要があります。
そこで、GHD*6とBRESS*7という臨床でのデータとGoogle検索結果(8語を1つの成分にまとめた)の関係性を線形回帰で調べました。その結果、Google検索結果が増えればGHDcやBRESSのデータ上の数値も増えることがわかりました。
従って、検索結果と実際の集団におけるメンタルヘルスの状況は対応が取れると判断しました。
うつ病が"減る"仕組み
どうやらポケモンGOが集団におけるうつ病を減らす傾向にあることはわかりました。しかし、どのような仕組みで減るのでしょうか?- 運動
- 他人との交流
- 自然との触れ合い
- ポケモンGOのリリースと3因子に関連する語彙の検索数
- ポケモンGO以外のゲームとうつ病に関連する語彙の検索結果
もし①,②のβが正であれば、ポケモンGOのような位置情報を使ったゲームが3因子の行動を促進するからうつ病が減るのだと考えられます。
検索結果をさらに調査した結果、①と②のβ両方が正だったため、先ほどの予測が正しかったことになります。
終わりに
今回の結果に限界はありますが、結果から言えることは以下になります。GPSを活用したゲームは次の活動を促進するため、集団におけるうつ病の改善に役立つ
- 運動
- 他人との交流
- 自然との触れ合い
このことは、悪者にされがちだったゲームが健康促進の為の政策に活用できるかもしれないことを示しています。
今回の結果は集団における研究でしたが、個人を対象にして研究を続ける意義がありそうです。
なお、まとめる都合上一部の分析を飛ばしているため、引用する際は必ず下記のリンクから原文を読んでください。