本記事は社員を教育する人事と、工場実習で新入社員を受け入れる現場担当者の方に向けて書いています。
人事/現場担当者の皆さん、忙しい中本記事にたどり着いて頂きありがとうございます。
そして、お忙しい中新入社員の受け入れお疲れ様です。特に現場担当者の方は数か月で出ていく実習生のための各種の準備、本当に大変だと思います。感謝申し上げます。
ただ、採用した新入社員にも、工場実習という強烈な環境変化に耐えられず退職という人もいます。その中には開示していないものの、実は何らかの持病や障害があった...通常の勤務には耐えられそうだからクローズ就職したけど、工場実習には耐えられなかった...という人もいるかもしれません。
戦力になるはずなのに、ある意味特殊な工場実習が原因で退職するのは御社にとって損失なはず。
この記事は、そんな早期退職を予防するために、発達障害の当事者目線で「人事/現場担当者にお願いしたい、すぐできそうな新入社員全員に向けた合理的配慮」を解説します。
健常者枠=障害なし ではない
2012年に文科省が実施した調査では、通常学級に通う子供の6.5%が発達障害の恐れアリとされています*1。通常学級で過ごした学生の多くは健常者枠での就職を考えるでしょう。
つまり、健常者枠であっても30人の社員を雇えば、2人くらいは発達障害のリスクがあることが見込まれます*2。
成人後に残る特性は多種多様ですが、私の場合次の4点が工場実習で問題になりました。
- 不注意と衝動性で事故/労災を起こす
- 環境変化に弱く、交代勤務に耐えられない
- 投薬の影響で残業時のパフォーマンスが落ちる
- 感覚過敏の影響で、作業着を着たがらない
障害クローズで就職している以上、全て配慮しろとは言いません。ただ、発達障害ではない新入社員も含めて次のような配慮があれば、工場実習中の退職を減らせるはずです。
また、広範な採用の自由は採用後の社員の地位を保護することと引き換えになる側面があります*3。採用した以上、最低限の配慮をすることは企業市民としての責任ではないでしょうか。
新入社員全体にできる、具体的対応例
馴れるまで夜勤はさせない
発達障害の傾向の中に環境変化に弱いというものがあります。ただ、これは多かれ少なかれ一般の新入社員にも当てはまるもの。
特に工場での作業を前提とせずに採用した事務系/技術系の新入社員にとって夜勤のある工場実習は相当な心的/肉体的負荷になります。
そこで、工場実習最初の1~2週間は日勤のみとしてはいかがでしょうか。作業に慣れるまではどうしても危険な行動をしがちです。慣れない作業+慣れない夜勤では労災リスクも高そうですから、それを予防する観点からも有意義と思います。
私の職場では、上司の裁量で最初の1ヶ月は日勤のみになったおかげで作業に順応してから夜勤に入れました。結果的に心的/肉体的な負荷をかなり抑えつつ、工場実習の狙いを達成できたと思います。
服装のOK/NGとその理由を明確に伝える
工場で作業する以上、安全は大事です。そのため作業着等の服装制限を課すのは必要だと思います。
ただ、発達障害者の中には感覚過敏といって作業着などの感覚がかなり辛い人もいます。一般の方にわかるように言えば、洋服のゴワゴワ感が嫌だ!手袋がくすぐったいからつけられないなどですね。
もちろん、作業着着用が義務なのはわかります。なので「見えないところを工夫することで、自分の感覚で耐えられるようにしている」のが実態です。
例えば、次の部分を自分に合うように工夫しています。制限があるかを言ってくれると嬉しいですね。
- インソール
- インナー(素材や長さ)
- 靴下の長さ(くるぶし丈とか)
耳栓を着用可能に
発達障害の人の中には、騒音があると人の声について情報処理が出来なくなる人もいます*4。
また、長期的に騒音環境にさらされると難聴や耳鳴りなどの問題が生じることも知られています(これは発達障害とは別)。
そのため、(障害クローズだけど)できるだけ耳栓着用で仕事したい...という方もいるはず。リモートワークが進んだ今、通常業務は常時耳栓*5着用でなんとかなることを前提にしている人もいます。
そこで、現場担当者の方には耳栓着用の可否と着用の場合種類の制限があるか?を実習に来た社員に伝えてほしいです。
※法令により一定の騒音環境下では耳栓着用が義務付けられているのもありますしね...
合理的配慮の姿勢をアピールする
新入社員の中には、障害のことは伏せているけれど実は障害者手帳を持っている...
というクローズ就労者もそれなりの数います。
それは、「障害オープンなら採用されないだろうし、合理的配慮なんて期待できない」と考えるからです。
であれば、会社側が健常者枠で雇ったとしても必要なら合理的配慮をすることを明確化し、実際に配慮したケースを示していくべきではないでしょうか。開示すれば配慮されると信頼されれば、社員も開示してくるはずです。
私の知っている範囲でも、入社後に持病を開示して合理的配慮を受けた同僚がいることを聞いたことで、自らの持病も開示したケースがあります。
特に障害者手帳を持つ社員に障害を開示させた場合、障害者雇用納付金(未達1人当たり5万円/月)を減らせたり、法定雇用率を達成すれば逆に助成金を貰えたりと、経済的なメリットも多くあります。
採用後に障害を把握する場合、労働者全員に画一的な手段で申告を呼びかけることが原則です。プライバシーを侵害することがないようにお願いします。詳細は厚労省発行のこちらのガイドラインを参照ください。
まとめ-合理的配慮で一般社員も働きやすく-
ここまで、人事/工場担当者の方に知ってほしい「工場実習における合理的配慮」を発達障害当事者の目線で解説しました。そんなにコストかかるなら...という気持ちは理解できますが、昨今のSDGs等の観点からも合理的配慮は重要と言えます。
全員に対するちょっとした配慮で早期退職を減らせる…ならコスパの良い対策なのではないでしょうか。