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VRは心理学研究を変えるか?

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こんにちは。

いきなりですが、みなさんVR(仮想現実)って聞いたことありますか?ときどきVR映画とかもありますよね。

詳細な説明は省きますが、オリジナルではないけれども、あたかもそこにいるかのような感覚を味わえるような環境を工学的に作る技術のことです。

おそらく心理学の人が多いこのブログの読者の方なら「VRは工学系でやるもの、私には関係なし!」と思うのではないでしょうか。

そんなことはありません。心理学とVRは切っても切り離せない関係にあります

POINT

この記事を読めば、なぜVR研究が流行るのか?心理学×VRでどんな研究ができるかがわかります。

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なぜVRは広がったの?

大きいのはコンピュータの技術が進歩したことです。以前はスマホ=10万円するiPhoneという感じでしたが、今では1万円程度でも動くスマホがた多く売られるようになりました。

通信領域を見てもやれ4Gだ5Gだと、素人にはよくわからないレベルにまで発展しています。

この流れに合わせてVRデバイスも急激に発展しました。数年前にはVRを一般家庭で見ることはかなり困難でしたが、現在売られているOculus Questを始めとしたOculus系のヘッドマウントディスプレイ*1は既に5万円以下で買うことができます。その結果、VR動画も広がっています。

時々論文に出てくるVRデバイスを検索しても、かなり高品質なものが出ていることからもVRの進歩が伺えます。

 

学会誌に見るVR×心理学の発展

真面目な心理学を気軽に学べる「心理学ワールド」。私も毎回目を通していますし、このブログでもおススメの資料として何度か紹介してきました。

そんな心理学ワールドですが、2020年の1月に発行された88号は「バーチャルリアリティの広がり」を特集しています。それだけ学会としても重視しているようです。


その他VRを専門に扱う学会誌である日本バーチャルリアリティ学会論文誌では、これまでに7回にわたってVR心理学という特集を組んでいます。

特集で扱うテーマは毎回変わりますが、自己運動知覚や遠隔作業での心理特性、ブレインマシンインタフェースなど多彩です。臨床系の論文は少ないですが、面白いテーマが多く心理学専攻ならだれでも一読に値すると思います。

VRと心理学が強く結びついていることはわかったとして、実際どのように使われているのでしょうか?ここからはそれを解説していきます。

VRで心理学を研究する

実験室での実験だけではなく、実環境でも実験したい…というニーズはありますが、簡単ではありません。その理由は「大人の事情」なことが多いですが、いくつか例示してみましょう。

  • コストがかかりすぎる
  • 研究倫理的にマズい
  • 現実の空間でやると意図しない変数が入る

具体的な例を考えてみましょう。研究者であるあなたは「飛行機の緊急着陸時の乗客の心理状態とその行動」というテーマで研究をしたいとします。すると、次のような問題に気づくはずです。

  • 飛行機1台を借りるお金はない
  • 緊急着陸に失敗するかもしれない
  • PTSDの問題があり倫理委員会に却下される

でもVRならこんな課題を解決してくれます。安全性をある程度確保し、リアルに近い環境での実験が可能です。実環境での研究で問題になる莫大なコストや、実機を作らないとユーザビリティテストができない!!といった開発あるあるな問題にも対処できます。

さらにVRの場合、実空間には存在しない極端な環境を出すことも可能です。今まで書いてきた応用を意識した研究だけでなく、純粋な現象を解明する研究にも使われています。

VRの心理学的側面を研究する

ここまでは、VRを使って心理学を始めとした人間研究を行うというテーマでした。しかしVRには様々な問題があります。そのためVRを使うことによってどんな心理学的な問題が起こりうるのか?ということも研究されています。

VR酔いというVRを使うことによって乗り物酔いのような症状が出る原因は、視覚とそれ以外の感覚との間の「感覚的矛盾」だそうです。


電車や車の中でずっとスマホゲームをしていると乗り物酔いをしますよね。基本的にはそれと同じカラクリです。この研究ではそのVR酔いを注視点(見つめるべき点)を使って眼球運動をコントロールすることで減少させられることを示しました。

もう一つ研究を紹介しましょう。心理学実験の1手法としてVRを用いるのであれば臨場感は重要な要素になります。そのため、そもそも臨場感って何?というところの研究も行われています。この論文では臨場感に関するアンケートを行い、その後因子分析などの分析を行って検討しました。


その結果として臨場感の素朴な理解が、「楽しく」「迫力」「動感」があるコンテンツが提供され,「その場で 実際に体験しているような感じ」を受ける心的状態であることを指摘しています。

この2つの研究が示すように、VRを使ったときに人が知覚する現象もVR×心理学の重要なテーマになっています。

まとめ

今回は「VRで研究する」パターンと「VRを研究する」パターンの2種類を取り上げました。

まだまだVRには課題がありますが、統計データから見ても伸びる分野の一つです。そして心理学の研究の幅を広げる意味でも有用なデバイスだと思います。

ぜひ実験手法として活用してみてください。まだ参考書も少なく少し大変ではありますが、実験の立案からプログラミング、評価までを体験しながら学べるVR×心理学の研究はとても意味のあるものになるはずです。

*1:頭に被ってVRを見ることができます