こんにちは。
このブログは心理学とそれを活かした就職をテーマにしていますが、いろいろな方に心理学の研究に興味を持ってほしいという思いから、心理学に関係する研究の紹介もしています。
おそらくこのブログを読んでいる方の中には、「自分のテーマとは違う分野の論文紹介とかつまらん」と思っている方もいるのではないでしょうか。
私も学生時代に研究室メンバーの論文紹介を聞く授業があったのですが、論文紹介をする意義が正直なところわかりませんでした*1。今となってはもう少し熱を入れて取り組んでおけば、論文紹介をしたり聞いたりすればよかったと感じます。
というわけで今回は、論文紹介をするメリットと、何から始めればいいのか?ということについて解説していきます。
この記事は、主に心理学専攻の方のうち学部1~3年生と、他分野から心理学部や心理系の大学院に入りたい方向けに書いています。
1.言葉についてちゃんと調べるようになる
普段論文を読んでいると、ふんふん××ってこういう意味でしょ!!となんとなく読み過ごしてしまうことも多いもの。でも実際に文章にしてみると「あれ?この用語ってこういう意味であってたっけ?」と思うこともしばしばです。
私自身も論文紹介記事をこのブログで書いていますが、その際には実際に書く時間以上に下調べをしています。例えばこの記事の場合、読んだり調べたりするのにかけた時間は実際に書いている時間の3倍くらいです。
その過程で、「やばい!この用語を間違って理解していた」ということに気づき、その後しっかりと理解できた用語もたくさんあります。
そういう極端なケースはなくとも論文執筆や様々な部署での発表の際に、用語の定義をきちんとわかったうえで使うことはとても大切なことです。また、院試や公務員試験では用語の説明や論述を求められることも多いです。普段から用語の説明をきちんとする習慣をつけておくことはそういう試験にとても役立つと思います。
口頭で誰かに論文の内容を紹介するのもいいと思いますが、記録に残るという意味でも、後から自分の理解を振り返るという意味でも論文紹介を書いてみることはたくさんのメリットがあります。
2.様々なテーマに触れることができる
これはブログ等で発信する場合にあてはまりますが、読んでくださる方に飽きられないようにするためにはいろいろなテーマを扱う必要があります。私自身はこのブログのPVにさほど執着していませんが、それでも見てくれる方がいるのは嬉しいものです。
このブログでもいろいろな分野の方に興味を持ってもらえるよう、ソーシャルメディアでの情報拡散、感染症治療者のメンタルヘルス、面接の限界、眼球運動による覚醒度維持などいろいろなテーマを扱っています。
様々なテーマや領域を扱うという意味では公務員試験や心理学検定、公認心理師の試験対策をすることである程度対処できます。しかしこういった試験はどうしてもある程度出題範囲や頻出領域が決まっています。そして「試験に合格するぞ!」というモチベーションで勉強すると、試験に出ない範囲についてはおろそかになりがち*2。
もちろん頻出領域ほど業務に重要ですが、扱わない領域は全く触れなくてもいいわけではありません。実際私は企業に来て数か月ほどですが、そこで扱う心理学に関する知識は公務員試験や公認心理師の試験ではほとんど扱わないものがたくさんあります。
論文紹介の一環で様々なテーマを扱う中で、目の前の試験にとらわれず、心理学ってこんなにいろいろな領域に役立っていると感じることができるのも論文紹介をするメリットの1つです。
3.隣接諸科学のトレンドにも触れることができる
この観点は特に企業就職を狙う人には重要な視点です。隣の研究室の先生も専門が心理学というケースが多い大学*3と異なり企業の場合、隣のデスクには心理学とは無関係なテーマの研究をしている...というケースが多々あります。少なくとも自社はそうです。
こちらの記事を見てもらえばわかるように、企業の心理学周辺の部署で働いている人のバックグラウンドは本当に多様です。
そして企業の場合は会社の利益を増やすための手段として心理学を活用するというスタンスが強いです。そのため工学を始めとする他分野の人と協力し、彼らに味方になってもらう必要があります。
その際に重要になるのが、他分野と連携した心理学に関連する研究の知見です。こういうことにきちんと触れておくと、企業でのトレンドが少しずつ分かってくるのではないでしょうか。私は企業に来て日が浅いですが、個人的にはそう感じています。
心理学の隣接諸科学といえば脳科学や神経科学、教育学などいろいろありますが、目の前の研究に従事していると意外とそういう分野まで意識が向かないものです。私が不真面目だったのかもしれませんが、学部生時代にあまりそういう領域まで勉強できていなかったために企業に就職してからとても苦労しています。
こういった隣接諸科学との研究トレンドは、公務員試験などで心理学の知識を身につけた場合あまり知る機会がないと思います。だからこそ他分野の知見を理解するために普段から論文を読むようにすることはとても大事です。
まずは日本語の論文から始めよう
おそらく大学の先生方は、心理学の知識と英語の知識を同時につけるべく英語論文を読むべし!!と言うでしょう。
この意見は正しいわけですが、個人的には次のような前提条件がクリアできて初めて英語論文を読み切れるようになると思います。前提条件が満たされない中で読んでも、消費する時間の割には得るものがないのではないでしょうか。
- そのテーマの論文を日本語で読めること
- そのテーマで使われる専門用語をきちんと理解していること
- 最低限の英語読解力があること
英語を読む力は頑張って身につけてもらうとして、大事なのは前半の2つです。
ある程度研究がされているテーマなら日本語の本、あるいは心理学評論といった日本語のレビュー論文誌を読むことが最初になります。この段階では前提となる知識を覚えるという気持ちでいるといいでしょう。
前提となる知識がついてから日本語の論文、その中でもなるべくページ数が少ないものを紙で印刷して読むのがおススメです。
なおこのとき読むのにかかる時間はあまり気にしないこと。通学中の電車で読んだり寝る前にベットでゴロゴロ読んだり...。とりあえず自分のペースでじっくり読んでいくと気楽です。わからない用語はその都度調べましょう。心理学の中でも基礎系の知識は脳科学辞典という専門の研究者による査読を得て公開されている用語の解説サイトがあります。
サイト名からわかるように脳科学や神経科学の解説が多いですが、「輻輳開散運動」や「マイクロサッケード」といった視覚に関する領域の解説はかなり充実しています。国内で市販されている教科書よりもわかりやすいのではないでしょうか。
触ったことのないテーマだと、日本語であっても読むのに時間がかかります。それでも何本か同じテーマの論文を読んでいるとスピードがかなり上がりますますので、それまでの辛抱です。
さて、頑張って論文を読み切ったと思ったらいよいよ論文紹介です。このブログみたいにある程度詳しく論文紹介記事を書くのが望ましいとは思いますが*4、最初は論文の最初に書いてある要約を少し詳しくするところからでもよいと思います。
とにかく、日本語の論文をちゃんと読んで自分なりにまとめた!という経験が大事です。何回かやっていればこのブログの記事くらいには詳しく書けるようになりますし、同じテーマの論文であれば英語でもちゃんと理解できるようになります。
まとめ
最初に書いたように、私は学生時代あまり論文紹介をきちんとできる学生ではありませんでしたし、その意義もあまり理解していませんでした。
そんな私がこの記事を書くようになった理由は、企業に就職して上司から次のような業務命令があったからです。
この指示を聞いて初めて触れるテーマの論文を読むと、数日でかなり理解できるようになりました。そして今の仕事に生きています。
今回は論文紹介のメリットと始め方について解説しました。この記事が論文紹介をするきっかけになったら幸いです。もし「論文紹介を作ってみたので見てほしいけど相手がいない」のであれば私が見させてもらいます。そういう方はコメント欄や私のtwitterにでも書いていただけると幸いです。