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【論文紹介】あなたのリツイート理由,説明できますか?

本記事はGoogle Advent Calender にある #今年読んだ一番好きな論文2019 に応募するために作成された記事です。他の作成者さんの記事は下記のリンクよりご覧ください。他分野ですが本当に学びになります。


皆様こんにちは。ことりさん(@MarathonUniv)です。

ありがたいことに(?) #今年呼んだ一番好きな論文2019 に執筆のチャンスを頂きました*1。 

ということで今回は私の専門である心理学からtwitterに関する研究を紹介したいと思います。

こちらの研究です。

M. Komori, A. Miura, N. Matsumura, K. Hiraishi, and K. Maeda (in press). Spread of Risk Information Through Microblogs: Twitter Users with More Mutual Connections Relay News That is More Dreadful, Japanese Psychological Research.

記事を書いている12月16日現在はオープンアクセスのPsyArxivで読むことができます。

 
この論文を選んだ理由は,バイオ系の優秀な執筆者の皆様に興味を持っていただくためにtwitterの研究を書くしかない!社会心理学でもバズれるんだ!!というのを見せたい*2と思ったからです。

余計なことはさておき論文紹介に入りましょう。

筆者の皆様のうち,多くはtwitterをされており,しかもたくさんtwitterでつぶやかれております。そんな(きっと)twitterが好きな研究者たちのtwitterへの惜しみない(?)愛もたっぷりとお楽しみください!

POINTこの論文は,Twitterでリツイートされるノロウイルスや原発などのリスク情報をよくリツイートするのはどんな人なのか?また彼らは何のためにリツイートするのか?を検討しています。
本文で掲載の図はKomori et al.(2019)を基に全て自らの手で作成しました。また内容について誤読している恐れがあります。個人の研究等に活用される際は必ず原文を確認するようにしてください。
 

はじめに:リスクはどのように認知されるか?

リスクの知覚に関する研究は多くありますが,本研究ではSlovic(1987)のリスク認知に関わる2要因モデルに基づいて課題の検討が行っています。
 
Slovic(1987)はリスク認知には恐ろしさと未知性の2要因があることを示し,当時のアメリカ人がタバコ以上に遺伝子工学(いわゆるゲノム編集など)を危険なものだと知覚していることを示しました。

なお,その後の研究で時代や文化によって「何をリスクとするのか?」は大きく変化しうることが示されています。

調査手続き

本記事の読者の方の多くはバイオ系と思われるので少し丁寧に書いていきます。

本研究はtwitterにおいてリスク情報はどのように拡散するか?またどのような人がリツイートする傾向があるのか?を探ることが目的です。そのためまず「どのツイートのリスク認知を調べるか」決める必要があります。
 
調査対象のツイートは次の方法で選出しました。 
  1. 疾病・自然災害・放射能災害のいずれかのリスク情報を含むツイートを検索
  2. 毎日新聞のデータベースからリスク事象と結びつきの強い単語を47語選出
  3. 1と2の条件を満たすツイートからランダムに10%を選出
  4. 50リツイート以上されていることツイート(70ツイート)を選出
  5. 70ツイートについて全て読んだうえで手作業で10個のツイートを選出
簡単に書いていますが,これを実際にやろうとするとだいたい30時間×5人くらいの時間がかかります。私も似たようなツイートの分析をしたことがありますが,恐ろしいくらい面倒な作業です。*3
 

リスク知覚の評価

クロスマーケティングのパネルを利用して,20歳~69歳までの日常的なTwitterユーザー500人を確保しました。

手続きで選出された10個のツイート全てについて,Slovic(1987)と同様にDread(恐ろしさ:リスクが制御できず破局的な結果を招くこと)とUnknown(未知性:発生原因や被害が未知数であること)の2つの観点から6件法(数が大きくなるほどその指標を高く評価している)で評価させました。

最後にちゃんと該当のツイートを読んでいたかを確認するため,評価した10個のツイートと評価に使っていない5個のツイートの合計15個のツイートから,「読んでいない5個はどれか?」を回答させる再認課題に答えさせました。
 
ちなみに最後の再認課題の結果,500人中365人は不正解でした。これは10個のツイートをちゃんと読まずに評価していた可能性を示しています。
 
クロスマーケティングのパネルは有料でスクリーニングを実施しているのですが「いい加減な回答をすると今後はアンケートが送られなくなるかもしれない調査でも半分以上の人は適当に回答する(かも)」ということなのでしょうか...

リスク知覚の結果

上記の再認課題で正解して135人の結果を分析したところSlovic(1987)と同様に放射能災害を含むツイートは相対的に重大性と未知性の得点が高かったことがわかりました。

詳細な結果は下の図をご覧ください。*4

f:id:husbird:20201107194540p:plain



ツイート拡散の流れの検討

ここからtwitterにおいてツイートがどのように拡散するかを検討しています。まず調査対象となった3000人のユーザーについてIndegree(ツイート流入),Outdegree(ツイート数),Centrality(フォロワー+フォロイー),Mutuality(相互フォロー数)を全てチェックしました。この研究における変数となります。
 
4つの変数について対数変換したあと相関係数を求めたところ正の相関がみられたため,主成分分析(PCA)を行いました。結果は次の通りです。

f:id:husbird:20201107194855p:plain

これらの結果から,おおむねTwitterにおけるリツイート行動はフォロワー/フォロイーの多さを示す中心性と,相互フォロー率によって説明することが可能と考えられます*5
 
 
続いてロジスティック回帰分析を行った結果,CentralityとMutualityが低い人ほどリスク情報をリツイートする傾向があることが明らかになりました。
 
さらにツイート内容の重大性とMutualityの交互作用が有意であり,相互フォローの多い人は重大性の高いツイートほどリツイートする率が高くなる一方,相互フォローの少ない人は重大性の低いツイートほどリツイートする率が高くなることが示されました。詳細な結果は次のグラフをご覧ください。

f:id:husbird:20201107194423p:plain



これらの結果からリスク知覚はTwitter内での繋がりに応じて,Twitterユーザーに異なる影響を与えると考えられます。

 

考察

結果としてリスク情報を含むツイートはユーザの特性によってリツイートする/しないに異なる影響を与えることはわかりましたが,これは伝統的な影響モデルではリスク情報伝達を説明しきれないことを示しています。どうしてこのような結果になるのでしょうか。

 

本研究ではこの結果についてTwitterを使う動機が異なるのでは?*6という観点から検討しています。

Miura & Yamashita(2007)を始めとした研究ではSNS使用目的を「情報交換」と「社会的な関係の維持」の2要因があるとしています。Naaman, Boase, & Lai (2010)はTwitterの利用者を情報交換をメインの目的とする"Informers"と,個人的な関係を維持するために自らについて情報更新を行う"Meformers"に分けています。

結局これら一連の研究から次のような説が示されています。

Twitterは情報ネットワークと社会ネットワークという2つの仕組みが存在し,Twitterを使い始めた初期では情報ネットワークとして情報交換を重視する傾向がある*7が,フォロワー/フォロイーが増加するにつれてTwitter内でのかかわりという社会ネットワークをより重視するようになる。


さて上記のような研究成果をもとに筆者たちは様々な考察を行い,リツイート行動には2つのメカニズムがあるとしました。

  1. 幅広い種類のリスク情報をリツイートすることで情報交換をしたい人によるリスク情報の拡散(相互フォローが少ない人に該当)
  2. フォロワーに自分自身が感じた恐怖感を知らせるためにリスク情報をリツイートする人による拡散(相互フォローが多い人に該当)

 

せっかくなのでみんな大好きいらすとやを使って図にするとこんな感じになります。

f:id:husbird:20201107194343p:plain


 

 

 

感想

筆者らによるTwitterに関する研究はこれが初めてではなく,これ以外にも多くの研究があります。研究成果についてもっと知りたい!という方はこちらのリンクから成果報告書を日本語で読むことが可能です。

他の研究を見ても思いますが,筆者に皆様Twitter好きなんだろうなあ...というのが本当に伝わってきます。このプロジェクト自体は2016年に終わってしまいましたが今後の進展を期待したいものです。最近新型コロナウイルスについての情報がtwitter上で錯綜していますが,この研究知見を活かしてうまく対処できるといいですね,簡単ではありませんが...

話を本題に戻しましょう。考察では相互フォローの数が増えれば自分の思いを相手に伝えるためにリツイートするようになると述べました。

個人的にも昔は面白いと思ったらなんでもリツイートしていたけど,今(Twitter歴5年,1日あたり50ツイートくらい)はフォロワーさんの目も気にしてツイートするようになったなあ...と感じます。主観的にも納得のいく結果です。

ただこの記事を書きながら私の相互フォローの数を見てみたのですが,「少ないなあ...」と感じてしまう数でした。ムダなリツイートばかりしているからでしょうか...

では最後にみなさんにお聞きします。あなたはそのツイートをリツイートしたのはなぜですか?そして相互フォローの数はどれくらいですか?

...というわけでお読み頂きありがとうございました。本記事を読んで面白かった!と感じられた方,宜しければ私のtwitterもフォローして頂ければ幸いです。
 

引用文献

Miura, A., & Yamashita, K. (2007). Psychological and social influences on blog writing: An online survey of blog authors in Japan. Journal of Computer-Mediated Communication, 12(4), 1452–1471.
Naaman, M., Boase, J., & Lai, C.-H. (2010). Is it really about me?: Message content in  social awareness streams. In Proceedings of the 2010 ACM Conference on Computer Supported Cooperative Work (pp. 189–192).
Slovic, P. (1987). Perception of risk. Science, 236(4799), 280–285.

*1:学部生で卒論執筆が忙しいのに何で引き受けたのかはアレです。すなわちアレがアレ。

*2:いや違う,参加賞欲しい

*3:12/23追記, 注釈3を削除いたしました

*4:論文掲載のグラフをもとに手作業で作ったので,元論文と少しズレがあります

*5:この2要因で全分散の88%が説明可能です

*6:残念ながら本研究の特性上個人のTwitter利用目的までは検討できていませんが

*7:この段階ではリテラシーが低い