【放医研サマースクール】リスクコミュニケーションの実態を探る(研修レビュー)

こんにちは。

心理学とも少しだけ関係はあるのですが,リスクコミュニケーション(あるいは「科学コミュニケーション」)という言葉をご存じでしょうか?

心理学の領域では知名度が高くありませんが,昨年の日本心理学会のセッションで取り合げられるなど,少しずつ心理学のテーマになりつつあると感じています。

先日私が参加した放医研サマースクール(文系向け)では,放射線について理解し,リスクコミュニケーションのできる人材になる」ことを目的に,文系の初学者にもわかりやすい内容でした。

私の周りでも心理系出身者でリスクコミュニケーションにかかわっている方が複数いますし,精緻化見込みモデルなど心理学に関係する言葉もたくさん出てくるので,このブログでも取り上げてみることにします。

f:id:husbird:20190827201752j:plain

 

POINT本記事では,毎年夏にやっている「放医研サマースクール」の魅力を解説していきます。

放医研とは

千葉市稲毛区にある放射線医学総合研究所のこと。主に放射線の医療/生命科学的な利用に関する研究を行っています。有名なところで言えば,がんの放射線治療でしょうか。

 
原子力発電については扱っていません。別にJAEAという国研が存在します。


かつては独立した機関でしたが,現在はQST(量子科学技術研究開発機構)の一部になっています。

放医研サマースクールとは?

放医研が主に大学生/大学院生*1に向けて行っている放射線科学について勉強しよう!という研修です。文系/理系向けのコースがそれぞれ別にあります。*2


理系向けでは専門的な知識を前提としています。また理系向けコースの一部では特定の学部学科を意識したものも含まれています。

ただし文系向けのコースでは事前知識不問ということになっていました。

今年で3回目でしたが,今年まではお盆明けに行われていました。

サマースクール最終日のアンケートで「五輪の影響もあり,来年はお盆に実施したいが,どう思うか?」という質問があったため,来年(2020年実施)は今年までとは別の日程で行われる可能性が高いです。

 

原子力規制庁肝いりの事業のため,学生であれば交通費・宿泊費・研修費はすべて支給されます。

 

文系コースの内容は?

大きく分けて次の通りです。

  • 講義
  • 見学
  • 放射線検査体験
  • リスクコミュニケーション実習

lでは詳細を見てみましょうか?

講義

放射線に関する初歩の初歩から講義がされます。どれくらい初歩かというと… 半減期」を知らなかったり,「安定同位体放射性同位体」の違いを理解していなくても大丈夫なくらいです。

講義は研修の4割くらいでした。*3

放射線に関する基礎知識以外には,「放射線の危険性」や「放射線利用に関する法規」,「放射線政策に関する海外機関(例えばIAEAとか)との連携」についての講義がありましたが,基礎知識ゼロでも理解できるように工夫されていました。

見学

放医研構内の見学です。放医研内にある病院ではどんな治療が行われているの?とか放射線を医療で使えるようにするための機械ってどんな感じ?とか原発事故とかで大量に被ばくしたんだけど,その治療施設はどうなっている?といったことを学びます。

この見学,なんとほぼすべての機材が撮影可能でした!

放射線検査体験

福島原発の事故の直後,防護服を着こんだ人たちに機械を向けて放射線の線量を検査していましたよね?あの防護服を実際に着て,模擬的な放射線物質の測定をすることができます。

あの防護服,じつは着る時よりも脱ぐときのほうがはるかに面倒なんです...汚染物質がつかないようにするためとはいっても面倒な手続きが...


参加者の半分くらいは「放射線検査体験がしたい!」というのが参加の動機だったとか。


リスクコミュニケーション実習

この研修のメインとなる部分で,4日間の研修のうち1日を使っていました。

リスクコミュニケーションってそもそも何?何のために行うの?という初歩の部分から講義があります。

私は以前,リスクコミュニケーションにかかわる実務を行ったことがあります。しかも原子力...

しかし系統的に勉強する機会はほとんどありませんでした。*4そのため,今まで考えていたリスクコミュニケーションのイメージが変わるなど,非常に大きな影響を与えてくれたと思います。

例えばこんなところ

  • 科学的な知識とリスク管理だけでは不十分である
  • 特定の立場で誘導的になってはならない*5
  • 人間の心理面を理解したリスクコミュニケーションを行え(精緻化見込みモデルなど)

このうち心理面はとても重要だと言われました。ではここで言う精緻化見込みモデルとはどのようなものなのでしょうか?

  • 人間の意思決定には大きく分けて「中心経路」と「周辺経路」の2種類がある
  • 中心経路では主にコンテンツの内容を理解した意思決定,周辺経路では外部からの評判や発言者などといった外部からの情報に基づく意思決定
  • 中心/周辺経路のどちらが選択されるかは情報を処理するモチベーションがあるか?現実に情報を処理判断できるか?で決定され,処理可能であれば中心経路,不可であれば周辺経路が選択される。


なるほど...。実際のリスクコミュニケーションの段階では「知識の偏りがあることから周辺経路で理解されることも多い」のだとか。

その後に行われた実習では「地方自治体職員の立場で一般市民に対して放射線被害の説明をする」or「学校教職員の立場で地域の保護者に対して個別での説明をする」といったロールプレイングを行いました。

読んでいるだけだと簡単に聞こえるかもしれませんが,予想以上に難しいんです。

高圧的な住民がいる,予測していない範囲の質問が来ると意外にうまく答えられない,科学的に正しい説明では市民は満足しない… 私自身知識としては理解していたものの,実際にやると思っていた以上にキツイな…と感じました。

ロールプレイングってお遊びではないんですね。

まとめ

私自身はあまり放射線に関心はなく「リスクコミュニケーションの実務を学ぶ」のが目的でした。

しかし放射線に対する理解も深まりましたし,実習形式で学びが多かったと思います。来年以降,興味がある方はぜひ参加してみるといいのではないでしょうか…?


この記事が参考になったよ!という方は下のamazonの欲しいものリストから何か恵んで頂けるともの凄く喜びます。もしよろしければどうぞ!

*1:社会人も参加可能

*2:理系向けコースは春休みにも行われているそうです

*3:理系はもっと講義が多いらしいです

*4:しっかり勉強するチャンスって例えば北大のCoStepくらいしかないイメージ

*5:つまり広報になったらNG