こんにちは。
ここしばらく書いている就職記事の続きです。
今回は「企業心理職に就くための研究テーマ選び」で回答していきたいと思います。
心理学を生かして研究開発の仕事に就きたいと考えている方はまずこちらの記事をご覧ください。
理系の場合,「教授の決めたテーマをやる」ことが多いですが心理学の場合そうではないように思います。
少なくとも私の所属しているラボは同期8人のうち,教授と一緒のテーマをやっているのは私だけ。他の皆さんはもちろん教授の指導は受けますが,基本的に個々人の関心があるテーマをやっている感じです。
でも研究テーマ選びって大事だよ!と就活/院試で思ったので今回はどんなテーマを選べばいいのか?を書いてみました。
どんな選択肢があるのか?
具体的なテーマごとに分ける選択肢もありますが,今回は「研究費を誰が払うのか?」に注目して分けてみました。次のようになります。
もちろんこれ以外にも財団から競争なしで提供される資金もありますが,大きく分けて上のようになりました。
ちなみに競争的資金とは,政府が研究テーマを公募するタイプのもの。政府機関による選考を通過した研究者のみが資金を得ることができます。逆に大学別に無条件で与えられるものが運営費交付金です。
心理学専攻の学部生の研究の大部分は運営費交付金から出されていますが,近年運営費交付金縮小の流れが続いています。
その代わりに科研費などの競争的資金の割合が常勝しています。私の後輩世代は科研費で研究が当たり前になるかも...
科研費
私自身はいろんなことを検討し,科研費テーマを選択しました。
科研費とは「国の機関であるJSTから研究者に対して配分される競争的資金」のこと。競争的資金では日本最大級の規模を誇ります。
科研費は国から優秀だと認められた研究者に与えられるので,自分の研究室の先生がこれを持っていれば多分その方は優秀です。多分...
なおJSTは科研費以外にも「さきがけ」や「CREST」などの競争的資金を扱っています。
この科研費をはじめとした競争的資金による研究は大学教員にとって死活問題。
ですが実は研究を続けたい学部生にとっても大きなメリットがあります。
大金を使った研究が可能
近年心理学の研究にはあまりお金がかけられなくなってきました。例えば私の所属している学部でも昨年から「実験参加の謝礼額引き下げ」が行われ今までより実験しにくくなりました...
でも科研費の研究であれば通常よりも高い謝礼金を出せたり,運営交付金での研究では買えないような高級機材が買えたり...とメリットが大きいです。
そして,企業との共同研究と異なり「事前に決まった年数は必ずお金が入り続ける」のも魅力。安心して研究ができます。
教授が熱心に指導してくれる
もちろん別のテーマでも指導放棄されるわけではありません。が...
先生方も人間なので「自分の業績になる!」ならやはり高いモチベーションで指導してくれるもの。
そのため,自分から求めれば他の学生よりも熱心に指導してくれたり学会発表のチャンスをくれたりします。
私自身も教授からたくさんのサポートを頂き,学部4年の春の段階で学会発表を経験できたのは,科研費を選択したおかげだと思います。
また,先行研究等が日本語で残っていることが多く先行研究調査に時間をかけなくてよいのは大きなメリット。仮説立案や考察に時間をかけることができます。
ただしヤバい研究者が教授だと,研究実績を横取りされることも...
意外と自由なテーマ設定
研究室にもよりますが,私の研究室の場合最低限のテーマを与えられた後はほぼ自由にやらせてくれました。
要因を追加したりすれば,学部生であればそれなりの実験にはなると思います。
ですので,テーマ設定力や実行力も身につくとは思います。自由度は企業との共同研究と自主研究の間くらいで個人的にはバランスがいいと思います。
ここまで書いたように,メリットの割にデメリットが小さいです。
そのため,手早く論文や学会発表という実績が欲しい!なら科研費のテーマは強くお勧めできる選択です。
実績を稼ぎやすい
一応科研費は「企業では難しい基礎研究」に割り当てられることになっています。
しかし最近はやりの「選択と集中」の影響もあり,結果がある程度出そうなテーマが採択される傾向がある...と教授が言っていました。
国からのお墨付きもありますし,先生からの支援も得やすいということもあり論文や学会発表の実績を稼ぐ!という意味では本当に有利に働きます。
特に博士課程進学まで見据えている場合,学振(DC1/DC2)に採用されるための実績づくりが重要だと思います。
学部生の段階から発表しやすい研究なら,有利に働くのではないでしょうか。
企業との共同研究
自分の研究室と提携している企業の研究者と一緒に研究するタイプのもの。
いくつかの種類はありますが,何らかの形で企業の研究者と関わることになります。
心理系の研究室で企業と共同研究しているところは少ないのが現状。かなり共同研究先が多い私のラボでも,多い年で2~3社くらい。0の年も珍しくありません。
チャンスは限られているものの,共同研究には科研費にはない数多くのメリットがあります。
指示に従うだけで研究が進む
この表現はものすごく極論を言っています...。私のラボで共同研究している人はちゃんとやってますよ!
とはいえ共同研究は「企業がビジネスとして成功するため」に行うものであり,心理学研究の場合「実験・研究人材のアウトソーシング」になっているのも事実。
ということもあり,基本的には企業の研究者の方が考えて学生はそれに応えていくのが流れです。
企業の方の要求に応じて進めていくため,「いろいろ頑張ったけど結果がボロボロで卒論書けない...」とはなりにくく,卒論を書きやすいのも魅力。
企業研究者と関われる
企業で研究職を狙う!と決めているならば絶対に譲れないメリット。私も「企業との共同研究が良かったなあ...」と後悔することもあります。
学生は受け身になりがち...とは言っても「○○さんはこの手続きどう思いますか?」などと企業研究者の方との打ち合わせで聞かれることもあると同僚が言っていました。
それ以上に企業とのかかわりが深かったり,共同研究先で実験をする場合(心理学では珍しいですが)社員と仲良くなり「企業研究者としての生き方」を学べるのも魅力。
また科研費では難しい,ビジネス感覚やクライアントに詰められるプレッシャー耐性もできるはず。
凄く運が良ければ共同研究先に研究職で内定!できる人もいます。私の周りでも共同研究先に内定!した心理系の人がいます。
「共同研究した経験」そのものが就活で評価される(?)
共同研究は「学外の人との協力」が不可欠。そしてその学外の人は「大人」です。
そのため,文系就職に必須な「コミュニケーション力」があることを示す貴重なエピソードになります。
実際フツーの文系就職(除くメーカー)だと「企業の方と共同研究しました!」というだけでコミュ力などが評価された…という知人がいました。
それに事情を知らない人からすれば意識が高そうに見えますしね。
とはいえ,企業との研究という特殊性から2つのリスクがあります。これを知らないで始めると痛い目にあうことも…
突然研究が中止になるかも…
メーカーが心理学を活かすときは「より良い商品」を作るための知見獲得が目的になっている!と言われました。
そういうこともあり,不況や不祥事などで企業が窮地に立たされたとき,共同研究そのものが中止に!というリスクがあります。
中止になった場合,共同研究でなくなるだけでなく研究そのものが続けられなくなり卒業が困難になることもあります。
特許で縛られるリスク
企業の利益の源泉である特許。これに巻き込まれるのは学生も例外ではありません。 もともとは論文化/学会発表したかったのに特許で縛られて発表できない!
特許持ちは就活でも評価されるようですが,論文化を目指している人にとっては不便。 共同研究を始める際に確認できるので必ず確認しましょう。
自主研究(運営費交付金を利用)
ほとんどの学部生と同じく,自分の興味に合わせて卒論のテーマを決めるパターン。
科研費や企業との共同研究ほどはっきりしたメリットはありません。
ただし,自分で0からテーマを設定するのは貴重な経験だと思います。特に企業に文系就職した場合,数年は自分でプロジェクトを動かすのは難しい(と先輩方が言ってました)ので,このメリットは大きいです。
そもそも自分が好きなテーマだとやる気が続きやすいですしね。
まとめ
就活/院試という要素から考えても一長一短がある研究テーマ選び。
企業さんからすれば「心理学なら誰でもOK」という側面が大きいですが今後に繋がるのも事実。
研究室とのつながりを重視するか,企業とのつながりを深めるか,それとも自分自身でゼロから開拓するか…
さてあなたはどうしますか?
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